最終年度(2023年度)の研究実績の概要は,以下のとおりである。 第1に,組織不祥事研究の鍵概念である「非倫理的行動(unethical behavior)」に関する定量的研究において,非倫理的行動の3つの測定手法(質問紙/シナリオ/実験)に着目したレビューを実施した。その結果,3つの測定手法には,①対象とする非倫理的行動の時点(過去,未来,現在),②測定可能な非倫理的行動の種類と抽象度,③サンプルサイズとその属性という3点の差異に基づく特徴があることが明らかとなった。さらに,これらの特徴を踏まえたうえで,それぞれの測定手法のメリットおよびデメリットを整理・提示した。 第2に,2015年に発覚した商工組合中央金庫による危機対応融資における不正融資問題を事例とし,不正行為が組織内で広まった要因を明らかにすることを目的に分析を行なった。特に,不正手口の普及には,既存の不正手口を真似て実行する「模倣者」と,不正手口を他者に伝える「伝達者」という2つの立場が必要であることに着目し,それぞれの視点から普及要因を考察した。その結果,模倣者の視点においては,発生要因と普及要因には共通点が多くあるものの,普及特有の要因として,①過度な相互配慮・監視,②手口の模倣可能性という2つを示した。他方,伝達者の視点における普及要因としては,①正当性の向上,②自己ノルマの堅守,③手口の移転容易性という3つを指摘した。 研究期間全体を通じ,組織不祥事の発生プロセスに関しては,先行研究のレビューを実施したうえで,定量・定性の両面から検討を進めることができた。他方,常態化プロセスに関しては,常態化の前段階として,「不正行為の広まり」という現象に着目し,定性的な観点から解明を試みたが,残された課題も多い。今後は,常態化プロセスのさらなる解明に向け,事例分析の精緻化に加え,定量的な観点からも検討する必要がある。
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