当該年度は、機械学習を用いた動的経路分岐の分岐比予測モデルの開発に関する研究を進めた。動的経路分岐とは、1つの遷移状態(TS)を過ぎた分子運動が分岐して複数の生成物へと至る現象である。化学反応の理論解析で広く用いられる固有反応座標(IRC)は、TSを経由する1本の経路として定義されており、動的経路分岐を記述することができない。これに対して、研究代表者はこれまでの研究で、動的経路分岐の自動探索手法、及び動的経路分岐を含む反応経路ネットワークの速度論解析手法を開発してきた。動的経路分岐の解析では、動的経路分岐を見つけたうえで、さらにその分岐比を見積もる必要がある。そのため、これまでの研究では、得られた動的経路分岐それぞれに対して、計算コストの高い第一原理分子動力学(AIMD)計算による分岐比計算を行う必要があった。これに対して、本年度は、極小構造やTSといったポテンシャルエネルギー面の情報からAIMD分岐比を予測する機械学習モデルの構築を行った。過去の文献データを用いて学習した機械学習モデルは、AIMD分岐比の傾向を再現すること、及び速度論解析を高速化することが示された。また、複雑な反応経路ネットワークに対して本モデルを適用するスキームも提案し、実際の有機合成研究に用いられた反応経路ネットワークにおける動的経路分岐の重要性を明らかにした。また、この研究と並行して、動的経路分岐を有する新規の反応系を検討する手法の開発と応用に関する研究を進め、国際学術誌であるJournal of Chemical Theory and Computation誌に発表した。
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