研究課題/領域番号 |
21J20879
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
森本 康平 北海道大学, 大学院獣医学院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 神経炎症 / ニューロン / グリア細胞 / 神経伝達物質 / 認知機能 |
研究実績の概要 |
敗血症、歯周病、腸炎など末梢において炎症が生じる疾患では、中枢神経系疾患や精神疾患を併発するリスクが高いことが知られている。末梢の炎症を引き起こすモデルとして、マウスにリポ多糖(LPS)を腹腔内投与するモデルが多くの研究で用いられてきた。LPS投与マウスでは、抑うつ行動や認知機能障害がみられ、ニューロン変性やグリア細胞の活性化が生じていることが報告されている。一方で、LPS投与が神経炎症や脳機能を損なうメカニズムについては、不明点が多い。そのため、本研究ではLPS投与による神経炎症の病態機構を組織・分子的な観点から明らかにすることを目的とする。 2021年度は、LPSを投与したC57BL/6Nマウスを用いて、複数の行動試験を行うことで、自発的活動性に影響を与えずに認知機能を損なうLPSの投与条件を決定した。次に、エバンスブルー色素を腹腔内投与し、色素の脳内漏出を評価した。LPS群と対照群では、脳内エバンスブルー量に差がなかったため、本研究におけるLPS投与条件では、血液脳関門の透過性に影響を与えないことを確認した。次に、LPS投与がニューロンの樹状突起スパインに構造的な影響を与えるか検討するために、ゴルジコックス染色を行ったところ、LPS投与マウスでは未熟なスパインの割合が増加した。スパインの形成や刈り込みに、グリア細胞の関与が報告されているため、アストロサイト、ミクログリアの炎症マーカーとして、それぞれ抗GFAP抗体および抗Iba-1抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。LPS投与マウスではGFAP、Iba-1とも蛍光強度が増加しており、活性化していることが示唆された。次年度は、活性化したグリア細胞がスパインの未熟化に関与しているか検討し、LPS投与による組織・分子的な病態機構の解明を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、複数の行動実験や血液脳関門の透過性評価により、リポ多糖(LPS)の投与条件を決定することができた。また、LPS投与後の組織・分子的な病態評価として、グリア細胞の活性化や炎症因子の発現変化を検出し、樹状突起スパインが未熟化していることを明らかにした。一方で、ニューロン変性の評価など、当初想定していた病態評価をすべて行うことができなかったため、当区分とした。
|
今後の研究の推進方策 |
C57BL/6Nマウスにリポ多糖(LPS)を投与すると、認知機能障害が生じ、グリア細胞が活性化することや炎症因子の発現が上昇することを2021年度までに明らかにした。2022年度は、LPS投与後の組織・分子的な病態評価として、ニューロン死マーカーやグリア細胞貪食マーカーによる免疫組織化学染色を行うことで、認知機能障害が生じるまでの組織・分子的な変化を検出するとともに、病態に関与する脳の部位を特定する。次に、グリア細胞の活性化が病態に関与するか検討するため、アストロサイト活性化抑制薬のフルオロクエン酸やミクログリア消失薬のPLX5622を投与した後、LPSを投与し行動試験や病態評価を行う。さらに、神経伝達物質ノルアドレナリンがこれらの病態に関与しているか検討するために、生体の脳組織からノルアドレナリンをマイクロダイアリシス法で回収し、高速液体クロマトグラフィー法により定量化する。また、各細胞種のアドレナリン受容体サブタイプの発現量を定量化する。これらに変化が見られた場合、アドレナリン受容体の作動薬や阻害薬を投与し、病態評価を行うことで、アドレナリン受容体の関与を検討する。以上の行動試験や組織・分子的な病態評価によって、LPS投与マウスの病態機構を経時的・脳部位特異的な観点から明らかにするとともに、関与するグリア細胞種や受容体を特定することを2022年度の計画とする。
|