研究課題/領域番号 |
21J20980
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鶴井 真 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 希土類 / 配位高分子 / 錯体 / キラル / 円偏光発光 |
研究実績の概要 |
キラル配位子を導入した希土類錯体は発光の左右円偏光に強度差が生じる円偏光発光(CPL)を示す。本研究では、高い発光量子収率とCPLの異方性因子が大きいキラル希土類配位高分子の創成を目的としている。この目的を達成するためにはキラルユウロピウム(Eu)錯体におけるCPLの異方性因子を増大させるためのメカニズムを明確にすることが重要となる。そこで、当該年度ではキラルEu配位高分子の分子配向がCPL特性に与える影響について検討を行った。 分子配向を制御するために、加熱により相転移特性を示すキラルEu配位高分子を合成した。この配位高分子は180℃での加熱処理により結晶構造が変化することを粉末X線回折測定により確認した。一方で、発光スペクトルのシュタルク分裂は加熱処理前後で一致したことから、Euイオン周辺の配位幾何学構造は相転移により変化しなかった。したがって、この相転移挙動はEuイオン間の距離や高分子鎖の配向変化に伴うことが明らかとなった。また、CPLの異方性因子は相転移の前後で3倍程度変化したことから、中心金属周辺の配位幾何学構造だけではなく、配位高分子の分子配向もCPL特性に影響を与えることを明らかにした。 分子配向とCPL特性の関係については配位子から金属への電荷移動遷移(LMCT遷移)が関与していると考え、任意にEuイオン間距離を変化させたキラルEu(III)錯体をモデル分子として、量子化学計算(TD-DFT)を行った。その結果、Euイオン間距離とLMCT遷移の双極子モーメントの大きさに相関関係が見られ、LMCT遷移がCPL特性変化に影響を与えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目標は高い発光量子収率と大きいCPLの異方性因子を示すキラル希土類配位高分子の創成であり、そのためには錯体におけるCPLを制御するためのパラメータを明らかにすることが重要となる。現在までに、相転移特性を示すキラルユウロピウム(Eu)配位高分子の合成に成功した。この配位高分子の構造および光物性評価により、相転移に伴って配位幾何学構造を維持したまま高分子鎖の配向が変化することが明らかになった。さらに、量子化学計算により、CPL特性にLMCT遷移が影響を与えていることが示唆された。 また、キラルEu錯体のLMCT遷移は配位子の構造歪みと相関することに着目し、既存のキラル配位子の置換基にpentafluoroalkyl基を導入した新規なキラル配位子の合成にも成功した。今後はこのキラル配位子を用いた新規なキラルEu錯体を合成し、そのCPL特性およびLMCT遷移を系統的に評価する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、新規なキラル配位子と既存のキラル配位子を用いて、キラルEu錯体および配位高分子を合成する。合成した配位高分子はIR、質量分析、元素分析により同定を行う。光物性は発光スペクトル、発光寿命、CPL測定により評価する。そして、単結晶構造解析により配位幾何学構造および分子鎖の配向を明らかにし、CPL特性に影響を与える因子を明らかにする。配位高分子の立体構造は架橋部の長さおよび分子鎖間のCH-F、CH-π相互作用の有無によって変化することから、架橋部の骨格を変形することにより、配位高分子から多核錯体への変形も試みる。 昨年度までに検討を行ったキラルEu配位高分子は1つの中心金属に対し、3つのアニオン配位子と2つの中性配位子が配位した構造であった。この配位高分子において、中性配位子の配位方向を予測することは困難である。CPLメカニズム解明および目的の分子設計指針を明らかにするために、より単純な構造であるアニオン配位子のみによって構成されるキラルEu錯体についても検討を行う。この錯体は対カチオンの構造によって配位幾何学構造を変化させることが可能である。対カチオンを系統的に変化させた錯体を合成し、その構造および光物性パラメータを機械学習させることによってCPL特性に影響を与える因子を明らかにすることを目指す。
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