研究課題
本研究では、プロテアーゼ依存性ウイルスの高効率な分離法を開発し、野生動物検体から新規ウイルスを分離し、その生物学的性状を解析することを目的とする。これまで、宿主プロテアーゼを発現する細胞を用いたウイルス分離と次世代シークエンサーによる網羅的ウイルス検出を組み合わせたスクリーニング系を構築し、ザンビアで採取された野生動物合計約400検体からウイルス分離を試みた。その結果、脳心筋炎ウイルス(EMCV)およびロタウイルスA(RVA)を分離した。本年度は、コウモリおよび齧歯類動物から分離されたRVAの性状解析を実施した。近年、一部の分節でコウモリや齧歯類由来のRVAと類似した遺伝子型をもつRVAがヒトから検出されており、コウモリと齧歯類動物のRVAの人獣間伝播の可能性が懸念されている。しかし、これらの報告はゲノム解析にとどまるものが多く、ウイルスの分離及び性状解析はほとんど実施されていない。まず、全分節の遺伝子配列情報を決定し、遺伝子再集合の評価、および系統学的解析を実施した。その結果、コウモリ由来RVA 16-06株の遺伝子型は、ケニアの同種コウモリから検出された BATp39株と同一であったが、マストミス由来RVA MpR12株は、既知の遺伝子型と配列類似性が低く、全分節が新規の遺伝子型として登録された。さらに、MpR12株は、系統学的に他の齧歯類由来RVAよりもコウモリ由来RVAに近く、特徴的な進化系統を有することが示された。続いて、RVAが細胞侵入する際の接着因子である細胞表面糖鎖とRVAの結合性を調べた結果、16-06株は細胞表面のシアル酸と結合して細胞内に侵入する一方、MpR12株はシアル酸とは結合しないことが明らかになった。細胞表面糖鎖への結合性が宿主特異性に関連するという報告もあることから、今後分離したRVAの宿主域および病原性に関する解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
本研究でコウモリおよび齧歯類動物から分離したRVAは、当初期待された通り、これまで分離報告のない非典型的遺伝子型構造を持つ株であった。現在、全ゲノム解析が終了し、各種のウイルス学的性状解析が順調に進展している。
次年度は、分離したRVAの詳細な性状解析を実施する。本研究は、コウモリおよび齧歯類動物由来の非典型的遺伝子型構造を有するRVAの初の分離報告となるため、乳飲みマウスへの経口接種による病原性解析、ヒト小腸上皮3D培養モデルへの感染性解析を進め、今後非典型的RVAのリスク評価をする際の基礎的知見を収集する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 6件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
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