研究課題/領域番号 |
21J21141
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川向 ほの香 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / アミロイド / NMR / SAXS |
研究実績の概要 |
生体分子の流動的な相互作用によって特定の分子が集合し、周囲から隔離された液滴領域が形成される「液-液相分離 (LLPS)」は、細胞内の転写制御おいて重要である一方、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) などの神経難病の発症との関連が示唆されている。天然変性領域を有するFused in sarcoma (FUS) は、このようなLLPSを示すタンパク質で、一定の濃度以上では自己会合して液滴を形成するものの、制御因子Kapβ2が結合することで液滴形成が抑制され、その平衡状態が制御されている。一方、ALS患者でみられるC9orf72遺伝子への繰り返し挿入配列から産生される(Pro-Arg)nポリジペプチド (PRn) 存在下では、このFUSの液滴内部にPRnが取り込まれることにより液滴が長時間安定に形成され、液滴内部でFUSが凝集し、アミロイド化する。つまり、PRnが存在することで、FUSの単分散と液滴の平衡を制御するKapβ2の機能が阻害されると想定される。 本研究では、制御因子Kapβ2とFUSの相互作用に対してPRnが与える影響について検討することで、PRnが細胞内のLLPS制御を破綻するメカニズムの解明を目指す。さらに、PRn存在下における細胞内でのFUSの動態を明らかにすることで、ALSの発症メカニズムの一端が明らかになると期待される。 昨年度はPRによるKapβ2の機能阻害のメカニズムを明らかにするために核磁気共鳴 (NMR) 法などを用いた解析を行い、その成果の一部を学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、PRnによるKapβ2の機能阻害機構を構造化学的に解明することと、溶液中におけるFUSの構造変化を追跡することを目指した。 Kapβ2に対するPRnの相互作用を核磁気共鳴法(NMR)により評価したところ、PRnはKapβ2の酸性アミノ酸の割合が多い酸性キャビティを含む複数の領域に結合することが明らかになった。この酸性キャビティはFUSなどが有する核移行シグナル (NLS) の結合部位であることから、PRnはNLS結合部位と相互作用することでFUSとKapβ2の結合を競合阻害していることが示された。さらに、NLS結合部位以外にもPRnが結合することも示され、PRnは複数の部位でKapβ2 と相互作用することでKapβ2の機能を阻害することが明らかになった。 また、溶液中におけるFUSの構造変化を追跡するために、X線小角散乱 (SAXS)を利用し、溶液中におけるFUSの構造変化を追跡する手段の開発を行った。これまでの研究により、電子密度の高い重金属イオンをタンパク質中に固定し、Bufferをタンパク質の電子密度と等しい65%に置換した状態でSAXS測定を行うことにより、重金属イオン間の距離分布を求めることに成功している。今回も同じ手法を使用し、分散状態と液滴状態のFUSの構造を明らかにすることを目指した。測定条件は定まったものの、まだ有効なデータは得られていないため、進捗状況はおおむね順調に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
FUSの液滴形成過程の経時変化を観察するために、FUSが液滴を形成する条件の条件検討を行う。pHや塩濃度を変化させ、MALSEを測定することにより、液滴を形成する条件を検討する。また、液滴を形成する条件下におけるFUSの構造をSAXS測定によって観察し、野生型FUSとの比較を行う。 FUSは筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の原因タンパク質の一つであるが、ALS患者では複数箇所に変異が認められている。その多くはC末端側に存在するが、N末端側のLCドメインにはG156E変異が存在する。病態を発現する際のFUSの構造や動きについて明らかにするために、FUS G156Eと野生型FUSのSAXS測定結果を比較する。また、NMR測定も行い、病態を発現する際の液滴形成過程について明らかにする。
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