研究課題/領域番号 |
21J21981
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平郡 雄太 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 上流オープンリーディングフレーム(uORF) / 非AUG開始コドン / 植物の環境応答 |
研究実績の概要 |
令和3年度は,昨年度までに行ったゲノムワイドな探索により同定した「AUG以外の開始コドンから翻訳される上流オープンリーディングフレーム(以下,非AUG開始型uORF)」について,それらが関わる翻訳制御の生理学的役割の解析,およびその翻訳制御に関わるシス配列の同定を行った.特に,そのうちの一つであるポリアミン合成酵素をコードする遺伝子の非AUG開始型uORFについて,以下のような重要な知見が得られた. ①この遺伝子がコードする酵素によって合成されるポリアミンそのものが多く存在するとき,非AUG開始型uORFによる翻訳抑制が強まることがわかった.即ち高ポリアミンに応答してポリアミン合成酵素の翻訳が抑制される,という負のフィードバック機構があることが明らかになった. ②この遺伝子のポリアミン量に応答した翻訳制御には,非AUG開始型uORFだけでなく,その下流にある保存された二次構造が重要であることがわかった.さらに植物の多くの種で非AUG開始型uORFと二次構造の位置関係が保存されていることも見出した.これらのことから非AUG開始型uORFと二次構造が協働して翻訳制御に関わっている可能性が示唆された. 植物においてポリアミンは生長やストレス応答に関わる重要な分子である.その合成を翻訳段階で制御する本機構は植物において広範な生理学的機能を担う可能性が考えられる.そのため現在,レポーターコンストラクトを導入したシロイヌナズナを作成しており,今後さらなる生理学的な解析を進めていく予定である. 上記の非AUG開始型uORF以外にも,2つの非AUG開始型uORFがコードするペプチドにおいて,uORFの制御に重要なアミノ酸残基の特定を行った.さらに,それらのuORFにおける非AUG開始コドンからの翻訳開始を制御するトランス因子を同定すべく,候補遺伝子の変異体の作出を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の研究では,ポリアミン量に応答して翻訳を制御する非AUG開始型uORFを発見することができた.当初探索のターゲットとしていた環境ストレス条件に応答する非AUG開始型uORFではないものの,ポリアミンは植物のストレス応答にも深く関わる分子であり,その量を調節する機構の発見は生理学的に重要なことであると考える.さらに,非AUG開始型uORFの翻訳制御に関わるシス配列を同定する過程で,予期せずRNAの二次構造と非AUG開始型uORFの両方が関わる新規の機構の存在も見えてきた.また,令和4年度以降に行う予定である,非AUG開始型uORFの翻訳開始を制御するトランス因子の同定の準備段階として,候補因子の選出およびその変異体の作成を行うことができた.これらのことを勘案し,本課題はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度以降は主に以下の3点について進める. ① ポリアミン合成遺伝子の非AUG開始型uORFと二次構造が協働する翻訳制御機構の解明:上述したように,昨年度の研究成果により,ポリアミン合成遺伝子において非AUG開始型uORFと二次構造が協働してポリアミン量に応答した翻訳制御を担っている可能性が示唆された.非AUG開始型uORFの終止コドンと二次構造が多くの植物種で隣接しており,新規の翻訳制御機構が存在する可能性が考えられる.本年度はその詳細な機構について培養細胞を用いた一過的発現系による解析を行う. ② ポリアミン合成遺伝子の翻訳制御の生理学的役割の解析:ポリアミンの合成を制御する上述の機構は単に生体内ポリアミンの恒常性を維持するだけでなく,植物において広範な生理学的役割を担っている可能性が高い.これを検証するためにレポーターコンスタラクトを導入した形質転換シロイヌナズナを作出し,ポリアミンが関わる寒冷ストレスや塩ストレス条件などにおいて,非AUG開始型uORFと二次構造による翻訳制御が応答するかを検討する.また,非AUG開始型uORFおよび二次構造をゲノム編集により改変したシロイヌナズナも作出し,ストレス条件での感受性や内在ポリアミン量が変化するか調べる. ③ 非AUG開始型uORFの翻訳開始効率を制御するトランス因子の同定:昨年度作出した非AUG翻訳の調節に関わる因子の候補遺伝子の変異体を用いた解析を行う.まず,上述の形質転換シロイヌナズナとこれらの変異体の掛け合わせにより,候補因子が非AUG開始型uORFによる翻訳制御に関与する因子であるかを検証する.さらにその変異体を用いたゲノムワイドな解析を行うことにより,これらの因子が環境に応答した非AUG翻訳の調節に普遍的に関わる制御因子であるか調べる.
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