研究課題
令和2年度までに同定した翻訳制御に関わる非AUG開始型のuORFのうち,ポリアミン合成酵素をコードする遺伝子の非AUG開始型uORFについて,①翻訳制御の詳細な機構と②生理学的役割の解明に取り組んだ.ポリアミンは植物において環境ストレス応答など様々な生理学的課程に重要な分子である.①翻訳制御機構の解析令和3年度まで,シロイヌナズナのMM2d培養細胞を用いた解析を行ってきたが,内在のポリアミンが多くポリアミン添加による影響が検出されづらいという課題があった.令和4年度からはシロイヌナズナの葉肉細胞のプロトプラストを用いた一過的発現系を導入し,高感度でポリアミンによる翻訳への影響を測定できるようになった.この系により,令和3年度までに明らかになったuORFとRNA二次構造の他に,新たにGUG開始型uORFもポリアミンに応答した翻訳制御に必要であることが明らかになった.さらに今まで使用していたポリアミンとは異なる2種類のポリアミンに対しても応答することがわかった.また,シロイヌナズナ以外の相同遺伝子もポリアミンに応答した同様の翻訳制御を受けることがわかり,本機構の普遍性が示唆された.②生理学的役割の解析ポリアミン合成酵素遺伝子の非AUG開始型uORFやRNA二次構造による翻訳制御の生理学的役割を明らかにするため,ゲノム編集により非AUG開始型uORFおよび二次構造に変異を導入したシロイヌナズナを複数系統得た.翻訳制御がポリアミンの恒常性維持のためのフィードバック制御として機能している場合ゲノム編集体においてポリアミンの過剰蓄積が期待されるが,通常の生育条件では顕著な表現系は認められなかった.また,ポリアミンの関与が複数の研究により報告されている塩ストレス応答への影響をみるため,NaClを含む培地でのゲノム編集体の生育解析を行ったが,野生型との間で生育に差は見られなかった.
2: おおむね順調に進展している
ポリアミン合成酵素遺伝子の非AUG開始型uORFおよび二次構造による翻訳制御機構の解析については,令和4年度にポリアミンへの応答性,翻訳制御に必要なシス配列の同定,植物間での普遍性,など様々なことが明らかになり,一つの研究として完成されつつある.一方,研究開始時の主要な目的である,非AUG開始型uORFと環境ストレス応答の関係については,ゲノム編集体を用いた解析を始めたところではあるが,今のところそれを支持する結果は得られていない.しかし,ゲノム編集体の作出や一過的発現系の確立などの準備はすでに完了しており,次年度中に結果が出ると期待されるため「おおむね順調に進展している」とした.
①ポリアミン合成遺伝子の非AUG開始型uORFと二次構造による翻訳制御機構の解析ポリアミン合成酵素遺伝子の非AUG開始型uORFと二次構造がポリアミンに応答して翻訳を制御する詳細な機構を明らかにするため,selective 2’-hydroxyl acylation and primer extension(SHAPE)という二次構造の形成を検出する手法を用い,細胞内ポリアミン濃度に伴う二次構造の変化を検証する.②非AUG開始型uORFの環境ストレスにおける生理学的役割の解析ポリアミン合成酵素遺伝子の非AUG開始型uORFおよび二次構造に変異を導入したゲノム編集体を用いて,まず内在のポリアミン濃度が野生型に比べて変化しているかを検証する.また,ポリアミンが関わるとされるストレス条件での生育解析を行い,生育やストレス耐性に変化が見られるかを解析する.③翻訳開始因子候補の変異株を用いた非AUG開始コドンにおける翻訳開始制御の解析令和2年度までに,非AUG翻訳の調節に関わる因子の候補遺伝子の変異体を単離した.これを用いて上述のポリアミン合成遺伝子や他の同定された非AUG開始型uORFのレポーター形質転換植物との掛け合わせを行い,非AUG開始コドンの翻訳開始を制御しているかを検証する.
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Plant Molecular Biology
巻: 111 ページ: 37,55
10.1007/s11103-022-01309-1
Plant Biotechnology
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