研究実績の概要 |
昨年度実施した全国32の植物園を対象としたアンケート調査により,植物園間での保有株の分譲に伴い由来自生地の記録が欠失する事例が複数見られ,植物園間では必ずしも保全協力が図られていないことが示された.この結果について日本植物園協会大会(2022年5月)で口頭発表を行った. 本年度は,複数の植物園が協働的に同一分類群の遺伝的多様性を維持するメタコレクション保全策(Griffith et al., 2020, Int. J. Plant Sci.)の有効性を検証した.検証するモデルケースには,日本の複数の植物園で保有され,地理的スケールと保全単位数が対照的となる絶滅危惧植物2種を選定した(マメ科レブンソウ:日本固有,単一の保全単位(土屋ら,未発表),ナデシコ科エンビセンノウ:東北アジアに広域分布,複数の保全単位(Tamura et al., 2019)). 現在の植物園の保有株が野生集団の遺伝的多型を代表しているかを評価するため,レブンソウを保有する5園から88個体,エンビセンノウを保有する4園から96個体の葉サンプルを収集した.これらと各種の自生地を網羅した野生集団個体について,高解像度に遺伝的多型を検出するMIG-seq法を用いた遺伝解析を行った.解析結果から,1園内での保有株の遺伝的多型の有無,野生集団に対する全植物園での遺伝的代表性を示した.この結果に基づき,植物園間での保有系統の再配置や野生集団から新たに取り入れる系統を検討している. 各植物園内および植物園間で保有株の情報を記録し,遺伝的な情報を活用可能な状態で管理するためには,統一的なデータ管理システムの利用が必要である.そこで,日本植物園協会が運用するオンラインデータベースに遺伝解析を実施した各園の保有株の情報を登録し,各データページにアクセスできるQRコード,植物名,各園の管理番号を記載した個体ラベルの作成を行った.
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