研究課題/領域番号 |
21J22110
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
篠崎 竜我 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | α-defensin / Paneth細胞 / 腸内細菌叢 / 腸内イオン濃度 / 腸内環境 |
研究実績の概要 |
我々の腸管では宿主と腸内細菌、食が複雑に相互作用することで腸内エコシステムを形成しており、その全長に渡りpHや他のイオン濃度、酸素分圧、腸内細菌叢組成等が異なる。腸内細菌叢を制御する小腸のPaneth細胞から分泌されるα-defensinには複数のisoformが存在し、その殺菌活性は分子の高次構造に加えてイオン濃度等の環境条件の影響を受ける。しかし、これらの因子がα-defensinの殺菌活性に与える影響は不明である。私は仮説として、isoform、高次構造および環境条件がα-defensinの殺菌活性に多様性を与え,部位特異的な腸内細菌叢を制御していると考えた。本研究の目的は、α-defensinの殺菌活性に多様性を与えるメカニズムを解析し、Paneth細胞α-defensinが腸内エコシステムにおいて果たす役割を解明することである。今年度は、高脂肪食(60%脂肪)を10週摂取させ、肥満および2型糖尿病を誘導したB57BL/6マウスの便を採取し、α-defensin量の経時的測定と、16S rRNA 遺伝子配列シークエンスによる腸内細菌解析を行った。高脂肪食摂取開始5週から10週にかけて、α-defensin分泌量は普通食摂取群と比較して有意に低下した。高脂肪食摂取10週における腸内細菌叢占有率を解析したところ、高脂肪食摂取群のFirmicutes門の占有率は普通食群と比べて有意に上昇し、一方Bacteroidetes門は低下していた。α-defensin分泌量と各門の占有率の相関解析を行ったところ、α-defensin分泌量の低下にともないFirmicutes門の占有率は低下し、Bacteroidetes門の占有率は上昇した。この結果より、α-defensin分泌量の減少に伴い変動する腸内細菌が門レベルで示唆された。本研究の成果において、すでに2型糖尿病モデルの腸上皮直上pH濃度が変動することを示しており、この変動にα-defensin分泌量および腸内細菌が関与する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
α-defensinによる腸内細菌を介した腸内エコシステムの制御による生体の恒常性維持メカニズムを解明するために必要なin vivoにおける基礎的解析は、高脂肪食(60%脂肪)摂取による肥満および2型糖尿病および誘導と普通食摂取マウスを用いることで予定通りに進展した。今後、得られたデータの解析とin vitroによる研究をさらに進めて統合解析することで、Paneth細胞α-defensinが腸内エコシステムにおいて果たす役割の解明のための基盤を本年度の進捗により得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、α-defensinによって制御された腸内細菌叢が腸内エコシステムの相互作用によりPaneth細胞やα-defensinへ与える影響を解析するため、今年度で示したα-defensin分泌量と関係する腸内細菌を野生型マウスおよび無菌マウスへ経口投与し、経時的に糞便中および腸管各部位のα-defensin量のELISA法を用いて定量する。その後、腸管各部位の環境条件の測定に加え、小腸ホールマウント免疫蛍光染色の透明化イメージング像および電子顕微鏡を用いた組織学的解析によりPaneth細胞の数や顆粒形態を評価する。以上により、α-defensin分泌量と腸内の環境条件や組織学的なスコアとの相関解析を行うことで腸内細菌からPaneth細胞α-defensinへの働きかけを理解し、腸内エコシステムにおけるα-defensinの重要性を明らかにする。
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