研究課題/領域番号 |
22J00651
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松田 拓朗 北海道大学, 低温科学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 渦飽和 / 中規模渦 / KdV方程式 / 共鳴波動 / 非線形物理 / 子午面循環 / 南大洋 / 気候変動・気候変化 |
研究実績の概要 |
気候変動、特に偏西風の変動に伴う南大洋の三次元循環の変動を明らかにするため、理想化したチャネルモデルを用いて南極周極流の応答を調べた。今日までの研究から風応力の変化は南極周極流の流量にあまり影響を与えないことが知られている(“渦飽和”と呼ばれる)。従来、中規模渦が渦飽和を担うと考えられてきたが、その物理プロセスは解明されていない。そこで、中規模渦を解像できる高解像度モデルと中規模渦を解像できない低解像度モデルを用いて、風の変化に対する感度実験を行った。この数値実験から、高解像度モデル、低解像度モデルともに南極周極流の流量は十分大きな風応力に対して鈍感であることを明らかにした。この結果は、従来の解釈に反して“渦飽和”において中規模渦は本質的でない可能性を示唆する。また、低解像度モデルの渦飽和状態は、境界条件に強い制約を受けることも明らかにした。 高解像度モデルでさらに感度実験を行い、渦度輸送に伴う非線形効果とKdV方程式で記述される共鳴ロスビー波が“渦飽和”を担う可能性を明らかにして、“渦飽和”において非線形効果が重要であることを解明した。これらの非線形効果は低解像度モデルでも解像することが出来るため、低解像度モデルでも“渦飽和”することをよく説明することが出来る。 以上の解析により、風応力に対する南極周極流の応答の物理プロセスを解明した。従来の研究で考えられていたように飽和状態の決定においてメソスケール現象が重要な役割を果たす一方、“渦飽和”そのものは非線形プロセスが重要であることが示唆された。2023年度は現実的な地形を用いたモデルを作成して、偏西風の変化が子午面循環を含む南大洋の三次元循環に及ぼす影響を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は理想化実験で南極周極流の物理を明らかにすることを目標として、数値実験を行った。これらの実験から、従来の研究では考慮されていなかった非線形波動の共鳴と渦度輸送に伴う非線形効果が、気候変化・気候変動に対する南大洋の応答に影響する可能性を明らかにすることが出来た。また、理想化モデルの境界条件が平衡状態に影響を及ぼす可能性は今まで考慮されていなかったが、感度実験から境界条件に注意が必要であることが明らかになった。これらの結果は現在査読中、もしくは投稿準備中であり、2023年度中の出版を目指している。 2023年度は上記の結果を元に子午面循環の理解を深めていく予定である。2022年度には南大洋の子午面循環の予備解析として、子午面循環の経路が詳しく理解されている北太平洋域で解析を行い、亜熱帯-亜寒帯域で水塊交換が起こる条件を詳しく調べた。この予備解析は北太平洋の水塊交換に関しても新たな知見を与えることが出来たため論文として投稿して現在査読中であるとともに、南大洋の子午面循環の解析を行う上で指針となる結果を得ることが出来た。 上記の通り、本年度の目標としていた南極周極流の物理プロセスを解明するとともに、子午面循環の解析を行う予備解析を予定通り進めることが出来たため、おおむね計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
現実の南大洋の地形を用いて、汎用海洋大循環モデルMITgcmを用いて理想モデルの作成を行う。理想的な偏西風でモデルを駆動して、ラグランジュ的な解析を行い、亜熱帯と亜南極域の水塊交換の経路を明らかにする。特に、南極周極流と直接合流することが出来るアガラス反転流に着目して、地形と海流と中規模渦の関係を詳しく調べる。本解析では北太平洋で行った予備解析の際に強力なツールとなったLagrangian Coherent Structureと呼ばれる流速場の構造を抽出する手法を利用する。本手法は粒子追跡で問題になる初期値鋭敏性を含むカオス的な挙動の影響を受けにくく、水塊輸送に関する普遍的な性質を抽出する上で有用である。さらに、理想モデル内で偏西風の強度を変えることで、気候変化に伴う偏西風の変化が南大洋の循環に及ぼす影響を解明する。 さらにより現実的な海洋大循環モデルOFESにおいても粒子追跡を行い、現実の南大洋における子午面循環の経路を解析する、
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