研究課題/領域番号 |
22J01742
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
濱 祐太郎 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特別研究員(PD) (50970571)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | オートファジー / 小胞体 |
研究実績の概要 |
本研究は、小胞体に存在するオートファジー必須タンパク質の分子機能解析を通じて、脂質輸送の駆動力を明らかにすることを目的としている。これらは脂質二重層の外層と内層の脂質を転移させる層間輸送活性を持つと考えられているが、これでは現状のモデルに矛盾が生じる。研究開始当初は、それらの精製タンパク質を調製しリポソームに組み込んでIn vitro再構成系を構築し、それ主体として、層間輸送活性以外の機能を調べる方針であった。しかし、In vitro再構成系の構築にはもっと具体的な仮説が必要であることに気付き、生理的機能の情報を集めることが先決であると判断した。そこで培養細胞等を用いた生理的解析を優先した。 オートファジー不全細胞では、オートファジー実行タンパク質の遺伝学的階層性を評価できず、ある遺伝学的バックグラウンドの細胞を用いる必要がある。しかし、当該タンパク質についてはそのような細胞が作製されていない。そこで、CRISPR-Cas9システムを用いてノックアウト細胞の樹立を目指したが、成功しなかった。当該タンパク質の欠損は大きな成長阻害を呈するが、アダプター欠損細胞には既に成長阻害が認められる。そのため、それらを同時に欠損すると、成長阻害の程度が、増殖が困難なレベルに達してしまうことが失敗の原因と考えられた。 文献を調査および配列解析を行ったところ、遺伝子改変が容易なあるモデル生物が当該タンパク質のホモログを持つことを見出した。そこで、所属研究室にその生物を導入し、当該遺伝子の欠損細胞を作製した。その欠損細胞は、哺乳類細胞とは異なる表現型を示すことがわかりつつある。その生物は哺乳類のような後生動物(メタゾア)より前に系統的に分岐しており、脂質組成なども異なる。当該タンパク質の生理機能の進化を系統進化と結び付けて考えることで、分子機能にたどり着くヒントが得られるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
方向転換を行ったため、当初予定していたIn vitro再構成系の解析等は想定より進んでいない。生理的解析を優先することにしたものの、哺乳類細胞で新たなノックアウト細胞を樹立することができなかった。その代わり、遺伝子改変が容易なモデル生物を導入し、新たな知見を得ることができた。 このモデル生物は、CRISPR-Cas9システムと組み合わせることで、欠損細胞や変異ノックイン細胞を、哺乳類細胞よりも遥かに早いペースで作製することが可能である。また、注目する遺伝子を含めた多重欠損が可能である。これによって哺乳類細胞では不可能な遺伝学的解析が行えるという大きな利点がある。この点も、研究の加速につながる可能性が高い。 モデル生物を使って得られた新たな知見を深めていくことで、タンパク質の構造や生理機能の進化に関する情報が得られる可能性が高い。これは分子機能とも密接に関連すると思われるため、分子機能を解明する上でも有益な情報になると思われる。 以上、当初予定していた方向性からはやや逸れているが、研究としては順調に進行していると評価できる。今後は現在までに得られた知見を足掛かりにして、独自性の高い研究に発展させることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
モデル生物における当該遺伝子の生理的意義を解析するため、欠損細胞のオートファジー機能や脂質動態などを調べる。オートファジーの評価法に関しては理想的な手法が存在しないため、哺乳類細胞で最近確立された手法が使用可能かどうか調べる予定である。脂質動態については、哺乳類細胞で使われているプローブが使用可能と思われるため、それをモデル生物に発現させて用いる。 並行して、哺乳類細胞についてもノックダウンの系で欠損細胞を作製し、脂質動態を調べる。ノックダウンは、IPTG誘導性にshRNAを発現する系を用いる予定である。ノックダウン細胞を用い、オートファジータンパク質の局在や、オートファジー関連構造体の脂質組成などを調べる。 また層間輸送活性を評価するためIn vitro再構成系の樹立も行う。当該遺伝子と相同性を持つがオートファジー機能を持たないパラログが存在するため、それをコントロールとして解析するため精製する。層間輸送活性の評価にあたって、一般的な蛍光を用いた手法では脂質の層間輸送が正しく評価できない可能性があるため、異なる手法を用いる。
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