超弦理論に基づくフレーバー構造の再現にあたって、初年度はシンプルなモデルであるT2/Z2オービフォールドモデルでの解析を行った。結果としてフェルミオンの質量比および混合角は、波動関数のゼロ点というコンパクト空間の幾何に依存する量のパターン次第で再現可能だと判明した。より一般化されたモデルとして、最終年度の研究ではT4、T6のオービフォールドモデルに着手した。今年度の進捗ではそれらモデルにおけるゼロモード波動関数を構築できたが、フレーバー構造再現可能性の探索については未着手となった。一方で、後述の4次元のモジュラーフレーバーモデルからの示唆として、複数モジュライによるCP対称性の破れも含めたフレーバー構造の再現可能性が見出された。モジュライもまたコンパクト空間の幾何学的量である。つまり、幾何学的量がフレーバー構造再現可能性を左右する可能性を見出せた。 フレーバー構造へのもう一つのアプローチとして、4次元のモジュラーフレーバーモデルがある。今年度は3つのA4対称性を持ったモジュラーフレーバーモデルを研究した。このモデルは超弦理論のT2xT2xT2モデル等から導出できる可能性がある。また、複数モジュライを持ったモデルである。このモデルにおいてCP対称性の破れも含めたフレーバー構造の再現を試みると、ノンユニバーサルな複数モジュライが必要だという結果が得られた。さらにZmxZn対称性(2つのモジュライ)を持ったクォークフレーバーモデルの質量行列をモジュライの対称点近傍で調べた。結果としてCP対称性の破れと質量階層性は別個のモジュライに起因していることが示された。この結果は複数モジュライを持つ超弦理論のT4、T6モデルに対しても適用可能だと期待される。 総括して、研究期間全体を通して幾何学的量(波動関数のゼロ点、モジュライ)とフレーバー構造の再現可能性を関連付けることができたと考える。
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