研究課題/領域番号 |
22J10487
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
萩原 成基 北海道大学, 情報科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 導電性ポリマー / 脳型情報処理回路 / マテリアル知能 / 生体模倣 / 3次元LSI |
研究実績の概要 |
(1)これまで1次元的なものに限定されてきた導電性ポリマーワイヤー配線を、2次元及び3次元的な配線へと拡張できないか検証を進めた。2次元平面上にマイクロ間隔でパターニングされた4つの電極全てを同一のモノマー前駆体溶液に浸漬し、重合電圧を印加することで所望の複数電極間へ導電性ポリマーワイヤーを分岐配線させることに成功した。また、Au薄膜上へマイクロ間隔で形成された3つのAuスタッドバンプを下部電極として、電解研磨法を用いて作製した1つのAu探針を上部電極として用いた3次元配線システムを構築した。各電極へ重合ポテンシャルを液中印加したところ、各電極先端において電界集中が起こり、自重に抗いながら電界に沿ってワイヤー成長が進行する様子が初めて観測された。本成果は3次元空間上の所望する点同士を電気的に接続する新たな手法を提供し、3次元LSIにおける要素技術として大きく貢献し得る。 (2)(1)にて確立した自由配線技術を応用し、比較的簡単な脳型情報処理の実装を試みた。各電極間抵抗値を読み出しながら、重合電圧印加時間をフィードバック制御することで配線ワイヤー本数をある程度制御でき、所望の抵抗値へとシナプス可塑性の如く高精度制御できることを明らかにした。さらに、ワイヤー配線によるネットワーク形成後に電圧パルスを印加することで配線ポリマーワイヤーの物理化学的性質変化が誘起され、近傍シナプス間の側抑制的な相互作用に対応する抵抗変化特性が観測された。これらの挙動を利用することで、導電性ポリマーネットワークのヘブ則学習やwinner take all型情報処理を実現できることを明らかにした。さらなる高度なアプリケーションの実現に向け、3次元配線用Auスタッドバンプを多数集積したチップの設計を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で目標としていた導電性ポリマーワイヤーの3次元立体配線に成功したことは大きな進捗であり、本材料に立体配線材料としての高いポテンシャルを見出したという点において大きな学術的意義を有していると考えている。さらに、重合電圧印加時間のフィードバック制御による、高精度な抵抗制御に成功した点は当初の期待以上の成果である。各電極間抵抗値は設定目標値から0.5μS未満の誤差で独立に制御できることが示唆され、脳型情報処理への応用可能性を大きく切り拓く結果となった。これらの成果は国内外の学会及び学術論文誌にも投稿済であり、2件の受賞をはじめとする高い評価を得られている。 一方、立体配線を駆使した脳型情報処理回路の実装及び集積化に向けた検討についてはこれまで多くの課題に直面し、当初の研究計画から若干の遅れが生じている。特に、研究開始当初はAuスタッドバンプの加工歩留まりが非常に悪く、加工の条件出しに多くの時間を費やす結果となった。その他、並行して設計を進めてきたマイコン搭載型電圧制御プリント基板の作製に関しても、昨今の半導体不足などの理由から若干の遅れが生じているものの、当初の研究計画は採用年度内に十分完遂できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の推進方策としてはまず、前年度に設計した集積チップ及びその制御基盤構築を完遂する。前年度に得られた最適加工条件を用いて、Auスタッドバンプが多数作り込まれた集積アレイチップを作製し、各バンプへの前駆体溶液供給及び電圧印加制御を通じたバンプ間3次元ポリマー配線を可能とするマイクロ構造を、マイクロ流路やガラス貫通電極などの作製技術と組み合わせてチップ内で実現する。また、前年度より設計を進めてきたマイコン搭載型電圧制御プリント基板の作製を完遂させ、集積チップ上での脳型情報処理実装を実験的に行うための基盤を築き上げる。 これらの実験基盤を整えたのち、集積チップ上での脳型情報処理実装を実現可能かどうか実験的に検証するフェーズへと速やかに移行する。各電極間への3次元ポリマー配線を、機械学習アルゴリズムに基づく電圧制御を通じて行い、チップ内ネットワーク回路が脳の如く自己組織的に学習していく様子を光学的及び電気的に観察する。観察結果を機械学習のベンチマークに基づいて評価し、液中で学習及び推論可能な脳型ウェットウェアとしての有用性を見出すことを目的とする。
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