前年度では空間的に離れた電極間を導電性ポリマーワイヤーで高次元配線する技術を確立した。これを踏まえ、本年度では形成された導電性ポリマーネットワークの非線形な電気化学的ダイナミクスを利用した脳型情報処理を試みた。まず、ガラス基板上へ2次元平面内に形成された複数電極を前駆体溶液に浸し、重合電圧を電極間へ印加して導電性ポリマーワイヤーを重合成長させることでランダムネットワーク構造を形成した。形成したポリマーネットワークを電解質溶液または固体電解質で被覆したのち、1つの電極へ正弦波電圧を印加すると他電極から非線形な電圧応答が得られた。これは電解質中のカチオンが引き起こす一種のゲート効果に起因しており、本ネットワークが入力信号を非線形変換する能力を有していることを示唆している。 更に本研究では導電性ポリマーワイヤーのランダムネットワークを3次元立体構造へと拡張し、リザバーコンピューティング(RC)へとこれを応用した。多孔質性のクライオゲルへモノマー前駆体溶液を染み込ませ、電極として複数の白金線を挿入したのち重合電圧を電極間へ印加することで複雑な導電性ポリマーネットワークをゲル内部へ立体的に形成することに成功した。本研究ではこれを、入力情報を非線形変換可能な物理リザバーとして脳型情報処理に応用できないか検討した。生理食塩水を染み込ませたゲルへ17本の白金線を電極として挿入し、内3電極へランダムな時系列電圧信号を入力した。他14電極から非線形な電圧応答を読み出し、ソフトウェア上で重み付き線形和をとることでRCにおける出力を計算した。RCのベンチマークである線形記憶容量タスクを用いて物理リザバーとしての性能を評価したところ、内部にポリマーネットワークを有するゲルの方が持たないゲルに比べて高い線形記憶容量を有することが明らかとなった。
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