腸内細菌叢は宿主の免疫を制御することで健康に貢献することが知られている。腸内細菌叢の制御因子として、外界から取り入れられる食のほかに、宿主に由来する抗菌ペプチドなどが報告されている。小腸上皮細胞の一系統であるPaneth細胞は抗菌ペプチドα-defensinを分泌することで自然免疫を担う。さらに、α-defensinの選択的殺菌活性に関するin vitroの研究や、α-defensinの活性低下モデルおよび食などによる分泌低下モデルを使用したin vivoの研究から、α-defensinが腸内細菌叢を制御することが示されてきた。しかし、α-defensinがどのような腸内細菌を選択することで、免疫をどのように制御し、宿主の健康維持に貢献するのかは未だ全く不明である。したがって本研究は、α-defensin低下モデルマウスを用いて、α-defensinを起点とした腸内細菌叢の制御による免疫を介した生体恒常性維持メカニズムを明らかにすることを目的とした。 令和4年度はメタゲノム解析からα-defensinが腸内細菌叢を制御することを初めて明らかにした。さらに、腸管関連リンパ組織の組織学的および免疫学的解析から、α-defensinが腸管粘膜免疫を制御することを解明した。令和5年度は抗生物質投与による腸内細菌叢除去モデルを用いた免疫学的解析によって、α-defensinが腸内細菌叢を介して腸管粘膜免疫を制御することを示した。さらに、食や化学物質で誘発される疾患モデルを用いることで、α-defensinが非感染性疾患の感受性を規定することを明らかにした。 本研究により、α-defensin低下が腸内細菌叢の破綻を引き起こすことによって、腸管粘膜免疫の機能異常を介して非感染性疾患の感受性を亢進させることを明らかにし、α-defensinが腸を起点とした健康維持の基盤を担うことを示した。
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