地球上の多くの生物は微生物と共生関係を構築しており、その多くは相利共生であると考えられている。相利共生系の進化には両者の利益が非常に重要であるにもかかわらず、ほとんどの研究は宿主側の適応度にのみ重きを置いており微生物側の適応度を調べた例はほとんどない。そのため、我々はホソヘリカメムシ-Caballeronia共生系を用いて、微生物側が本当に利益得ているのかを明らかにし、共生系の維持機構を解明するべく研究を行っている。この共生系では宿主が毎世代環境中から共生細菌を獲得する(水平伝播)、Caballeronia共生細菌がこの共生系から利益を受け取るためには、何らかの形で土壌中に再度戻らなければならない。調査の結果、昨年度は、土壌の上に置いた死骸の表面にはカビが生えるが、そのカビの中でCunninghamellaを表面に接種した死骸からは、共生細菌がより短い日数で脱出でき、このカビが存在しないと共生細菌がカメムシの次世代へ伝播しないことが明らかとなってきた。また、Caballeronia共生細菌はこのカビの菌糸上を移動することで、より速く分散できることが明らかとなった。今年度は、カビは宿主の死骸を資源にすることで胞子の数が上昇していることが明らかとなった。加えて、宿主の死骸に物理的に傷をつけた場合にも次世代へと細菌が伝播したことから、カビは宿主の死骸に穴を開けることで共生細菌の伝播を助けていることが示唆された。これらの結果により、ホソヘリカメムシ-Caballeronia-カビの3者共生系は、3者それぞれが共生系から利益を得ていることが明らかとなった。また、CNRSの共同研究者とともに、カビとCaballeronia共生細菌のTn-seqを行うことで、カビと細菌間のヒッチハイキングにおける相互作用の解明を試みた結果、走化性などの運動に関連する遺伝子が細菌側にとって必須であった。
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