超高サイクル疲労とは一般的に疲労限度とみなされる応力より低い応力でも1千万回程度以上の繰り返し負荷を加えた場合に材料の内部を起点とした破壊(内部起点型破壊)が生じるという特異な現象である。材料内部の微小き裂は非破壊検出が極めて困難であり、内部起点型破壊の発生機構の詳細は解明されていない。 そこで私は内部疲労き裂の挙動を大型放射光施設SPring-8の放射光X線-CTを用いて明らかにした。その中で、ビームライン上に設置するピエゾ疲労試験機の開発、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で材料熱処理条件の検討、高輝度光科学研究センター(JASRI)および九州大学と共同でCT撮影条件の最適化など、様々な技術開発に携わり、内部疲労き裂の三次元進展過程とき裂の開閉口挙動を直接観測した。さらにCT観察結果と破面・結晶解析を併用することで、破壊起点におけるすべり系や結晶方位などの情報を特定し、内部起点型破壊の破面の特徴に対応するき裂進展寿命と進展速度を明らかにした。 一方、内部疲労き裂は大気から遮断され、酸化や気体の吸着を伴わない一種の真空環境中を進展するという考えに基づき、真空環境(~10-5 Pa)における表面微小き裂進展試験を実施した。真空中の進展速度は大気中より低下し、内部疲労き裂の進展速度と同程度となった。以上から内部起点型破壊が超高サイクル域で生じる主な要因が材料内部におけるき裂進展速度の低下にあることを示した。 さらに、私は真空中におけるき裂進展速度の低下機構の1つである転位すべりの可逆性(逆すべり)に着目した.チタン合金の析出物が逆すべりを妨げるというアイデアの下で異なる析出条件の熱処理を新たに考案し,実験を行った結果、析出物が少ない材料の内部疲労寿命は著しく向上した。この結果に基づき,き裂進展を助長・抑制する組織因子を考察し、内部き裂進展を抑制可能な熱処理法を提案した。
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