研究実績の概要 |
積雪地域では,多量の融雪水の浸透に伴う地すべり(融雪地すべり)が多発している。融雪地すべりの被害の防止・軽減には,警戒避難に資する指標が必要である。しかし,広域的かつ時間単位での融雪水量の把握が難しいこと,降雨・融雪水の地盤内への浸透時間を考慮できないという課題から,融雪地すべりに対する予防的な警戒避難は行われていない。そこで本研究では,新潟県上越・中越地方を対象として融雪を考慮した水文指標に基づく広域的な融雪地すべり警戒指標設定手法の検討を行う。 令和4年度は,解析雨量やメソ数値予報モデルなどの面的な気象データのみから任意の地点の最終的に地表面に到達した全ての水量(地表面到達水量,MR)を熱収支法に基づき算定するモデルを構築した。モデルの妥当性を検証するため,新潟県妙高市新井地区に位置する土木研究所雪崩・地すべり研究センターの斜面ライシメータで計測されたMRと比較を行った。その結果,MRの経時変化を概ね精度よく再現できることが分かった。続いて,1988年から2021年の12月から5月の冬期に発生した760事例の融雪地すべりを対象に水文指標に基づく融雪地すべり警戒指標の設定を行った。水文指標には,地すべりの滑動と良好な相関が報告されている実効雨量を用いた。本研究では,融雪の影響を考慮するために降水量の代わりにMRを用い,複数の半減期(1,6,12,24,48,96,168,336,504,720,1080,1440h)を設定した実効MRとして算出した。さらに実効MRの標準得点を1時間ごとに求め,時々刻々の標準得点が対象とする地すべり災害の7割を捕捉する標準得点を超過した期間が最も短い半減期(最適半減期)を求めた。その結果,最適半減期は504hであり,土砂災害に対する警戒避難を判断する際に一般的に用いられる半減期(72h)よりもかなり長いことが分かった。
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