研究課題/領域番号 |
22J11488
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山口 燿 北海道大学, 水産科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 種苗生産 / メバル属魚類 / 生体指標 / 雄成熟度 / 尿タンパク質 / 雄性ホルモン / リポカリン / スリーフィンガープロテイン |
研究実績の概要 |
本研究は、メバル類種苗生産の効率化を阻む、「雄成熟度判定の不確実性」と「雌親魚の卵巣発達不全」の問題の解決を目標として、メバル類雄主要尿タンパク質(リポカリン様タンパク質:LCN-lp、スリーフィンガープロテイン様タンパク質:TFP-lp)の産生機序の解析を実施した。 クロソイ血清中から、家兎抗LCN-lp抗体と免疫交差性を示すタンパク質(LLP)が見出された。同タンパク質の酵素免疫測定法を開発し、メバル類(クロソイ・エゾメバル)の雄において血清中の濃度を測定した結果、同タンパク質濃度は生殖腺体指数との有意な正の相関が認められ、LLPの雄成熟度指標としての有効性が示唆された。また、雄性ホルモンin vivo投与試験ならびにLCN-lp遺伝子上流ゲノム領域のin vitro転写活性解析(レポーターアッセイ)から、LCN-lpが雄性ホルモンによって誘導されることが明らかとなった。この雄性ホルモンによるLCN-lp産生誘導機構の存在は、LLPおよびLCN-lpが雄成熟度を反映する現象を矛盾なく説明すると考えられた。次に、クロソイ腎臓を試料としたTFP-lpのcDNAクローニングを行った。その結果、複数のTFP-lpサブタイプ配列が得られた。今後qPCRによるTFP-lp mRNA測定系を確立するためには、これらサブタイプのグループ化とプライマー設計が必要だが、その基盤となる情報が得られた。予備的な飼育試験から、雄主要尿タンパク質の機能解析を目的とした試験(行動試験等)には、クロソイよりも、エゾメバルに適性があると考えられた。一方で、エゾメバルについては、雄主要尿タンパク質の性状は、不明であった。そこで、将来的な機能試験を見据えて、交尾期野生エゾメバル雌雄腎臓の網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)データを解析した。その結果、エゾメバルにおける雄主要尿タンパク質の配列が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、血清中LLP測定法の開発に成功した。また同測定系を用いて、クロソイ・エゾメバルにおける血清サンプルの実測も完了した。得られた成果は、全国学会で発表した他、現時点では投稿論文を執筆中である。クロソイを供試魚としたアンドロゲン投与試験ならびにLCN-lp遺伝子上流ゲノム領域を対象とした転写活性試験(レポーターアッセイ)でも結果が得られており、LCN-lpの産生機序の解析の進捗は良好と判断した。TFP-lpの産生機序の解析について、当初の想定とは異なり、TFP-lpに多数のサブタイプが存在した。今年度は、TFP-lpサブタイプ配列を網羅するために、クロソイ腎臓を試料としたTFP-lpのcDNAクローニングに注力した。その結果、複数のサブタイプ配列の獲得に至り、今後のqPCR測定系の確立やin situ hybridization(ISH)法に必要な基盤データを得ることができた。次年度の研究では同データを活用することで速やかにqPCR測定系およびISH法の確立に到達できると考えられる。雄主要尿タンパク質の機能解析試験について、予備的な飼育試験から、それまでの産生機序の解析において主要な供試魚として採用していたクロソイは、不適であると考えられた。そこで、クロソイよりも、釣獲および飼育が容易なエゾメバルを、機能試験に用いる魚種として採用したが、エゾメバルの雄主要尿タンパク質についてはその性状は不明であった。そこで交尾期野生エゾメバル雌雄腎臓を試料としたRNA-seqデータの解析を行い、発現変動遺伝子群の中から、エゾメバルTFP-lpとLCN-lpの配列を特定することができた。これらの知見は、今後の雄尿タンパク質の機能解析の基盤情報となる。 以上、今後の研究実施に必要なデータは確実に蓄積されており、上述の評価区分「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究により、「雄成熟度判定の不確実性」の問題解決を目的としたメバル類血清中雄成熟度指標に関する研究は達成された。次年度では得られた内容をまとめ、国際誌に投稿する。また、LCN-lpの産生機序の解析として、本年度ではアンドロゲン制御の観点から、アンドロゲン投与試験ならびにレポーターアッセイに取り組み、良好な結果が得られている。次年度は、LCN-lpの産生制御に主要な役割を果たすと考えられたアンドロゲン受容体2タイプ(アルファとベータ)の性状解析および機能解析に取り組むことで、「アンドロゲン受容体を介した雄性ホルモンによるLCN-lpの産生制御モデル」の実証を目指す。TFP-lpの産生機序の解析については、本年度得られたサブタイプのcDNA配列に基づいて、まず、サブタイプをグループに分ける。分類されたグループ内で保存性の高い領域を特定し、グループに共通した領域にqPCRに用いるプライマーセットを設計する。設計されたプライマーセットを用いて、交尾期クロソイ雄における各グループの発現量を主要組織について定量する予定である。また同時に、ISH用のプローブ作製と免疫組織化学染色(IHC)用の家兎抗体作製を実施する。その後、qPCRで特定された主要発現組織を試料として、ISHおよびIHCにより、mRNA・タンパク質の局在を明らかにする予定である。また雄主要尿タンパク質の機能の解析では、エゾメバルを用いて、雄主要尿タンパク質に対する雌嗅神経細胞の反応を検証する実験を行う。ここで反応が認められたタンパク質については、次に実施する行動試験の試験物質として採用する。嗅神経細胞の試験については、次年度前半で試験条件の最適化のための予備試験を実施する予定である。
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