研究課題/領域番号 |
22J11867
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
豊原 涼太 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 仙腸関節 / 有限要素解析 / 腰痛 / 骨盤 / 関節運動 / バイオメカニクス / バイオトライボロジー |
研究実績の概要 |
今年度は,仙腸関節の運動機能の解明と関節疾患対処法の検討に向けて次に示す3つの研究を実施した. ①仙腸関節の表面形状と関節運動抵抗の関係の調査.本研究では,骨盤のX線CT画像から仙腸関節面モデルを作成し,設計開発した専用の摩擦抵抗試験装置を用いて関節の滑り運動時の運動抵抗と亜脱臼リスクの調査を行った.その結果,関節の運動方向と組合せ位置によって運動抵抗が変化すること,亜脱臼が生じる負荷閾値が異なることを示した.仙腸関節はその表面形状により関節状態が関節の運動性に影響を及ぼす可能性が示唆された.この研究成果については現在論文を投稿中である. ②骨盤ベルト治療法による荷重伝達状態の調査.本治療法は臨床現場で頻繁に使用されるものの,その効果機序を調査した力学的研究はほとんどない.本研究では,骨盤ベルトによる腰部圧力分布を実測し,有限要素モデルにその結果を入力することで骨盤ベルト装着時の応力環境を再現した.その結果,骨盤ベルトが骨盤を外旋させ,仙腸関節が圧迫される状態となることが実証された.この研究成果については英文雑誌(Bio-Medical Materials and Engineering)にて公開されている. ③座位姿勢における腰部応力分布の解析.座位は仙腸関節疾患をはじめとする腰痛疾患において疼痛を誘発しやすい姿勢であり,仙腸関節疾患においては座位姿勢によって疼痛の有無が異なることが報告されている.本研究では,背もたれ角度の変化に着目して座位時圧力を測定し,有限要素法を用いて腰部の応力分布を解析した.その結果,背もたれ角度110度付近で靭帯負荷および腰部椎間板相当応力が減少しており,背もたれ角度の至適領域の存在が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究申請時の研究計画の一部は実施できていないが,仙腸関節のバイオメカニクスと関節疾患の要因と治療法の検討に向けて,①仙腸関節の表面形状と関節運動抵抗の関係の調査,②骨盤ベルト治療法による荷重伝達状態の調査,③座位姿勢における腰部応力分布の解析と3つの研究を実施した.本研究で目指している仙腸関節機能の解明と関節機能を助ける治療法の提案に向け,それぞれで必要な研究環境の開発を行うことができた.結果として,①ではこれまでに調査されてこなかった関節面形状が関節運動を制限している可能性が示唆された.②③ではこれまでの臨床報告や主観試験の結果を科学的に裏付ける結果を示すことができた.今年度の進捗によって最適環境の提案に向けた検討への基礎を築くことができ,現時点での研究進捗状況はおおむね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度開発した研究環境を活用し,1)仙腸関節疾患の病理状態における関節表面形状による関節機能の調査を行い,2)病理状態において制限を受けるであろう関節機能を補助する力学環境を検討し,3)これを実現するために必要な治療手法の開発を行う.また,4)疼痛を誘発しやすい座位姿勢での力学環境を病理状態となりにくい姿勢の検討も行う. 今年度は生理状態での関節機能の調査を行ったため,今後は病理状態での実験を実施し結果の比較を行う.申請者がこれまでに従事してきた有限要素法による仙腸関節の応力分布解析を今年度と1)で実施する関節表面形状による関節機能の実験的調査と融合させた解析環境の開発を行い,これまでにない詳細な仙腸関節の力学環境の再現を試みる.この解析プラットフォームを活用し,バイオメカニクスの観点から仙腸関節疾患の新規治療法の提案に向けた検討を進める.
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