本研究では仙腸関節の運動機能の解明と関節疾患対処法の検討に向けて研究を実施した. 昨年度は仙腸関節の表面形状と関節運動の関係に着目して,関節の運動方向と組合せ位置によって運動抵抗が変化すること,亜脱臼が生じる負荷閾値が異なることを示し,英文雑誌(Bio-Medical Materials and Engineering)にてその成果を公開した.今年度は片側仙腸関節疾患患者におけるX線CT画像を用いて生理状態と病理状態の違いを検討した.その結果,仙腸関節疾患では関節滑り抵抗が減少し,より小さい力でも亜脱臼状態となることが分かった.また,関節表面は生理状態と病理状態で同様の形状であったものの,関節間隙の分布が異なっており,骨の回転が生じていることが考えられる.疾患側の間隙は生体内位置では一様に狭く,平滑化していると見られ,関節表面の凹凸形状による滑り抵抗が減少したと考えられた. 関節疾患対処法に向けては,初年度に骨盤ベルト治療法による荷重伝達状態を解析し,骨盤ベルトが骨盤を外旋させることによって仙腸関節が圧迫される状態となることを実証した.今年度は仙腸関節疾患をはじめとする腰痛疾患において疼痛を誘発しやすい座位姿勢において,疼痛が生じにくい座位姿勢の検討も行った.腰部負担が小さくなる姿勢条件を求めるために,背もたれ角度,座面角度,腰掛深さを変えた椅座位姿勢における腰部応力分布を測定し,同時に脊椎アライメントを計測し,有限要素解析によって疼痛発生部となりやすい腰部椎間板と仙腸関節部への負荷変化を可視化した.解析結果から,体幹―大腿角が大きくなる座位姿勢である前傾した座面での椅座位,浅い腰掛けでは,上肢と下肢をつなぐ仙骨部にかかるモーメントが減少することによって腰部にかかる負荷が減少することが考えられた.この研究成果については論文投稿に向けて準備中である.
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