研究課題/領域番号 |
22J12200
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
丹伊田 拓磨 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 地下性甲虫 / 視覚 / 偽遺伝子 |
研究実績の概要 |
地下性生物は一般的に眼が退化し,その機能である視覚も退化することが知られている.視覚は,像の形成・色覚・光受容などに区分されるが,地下進出に伴って,これらの機能がどのような順序で退化するのかについては,ほとんど分かっていない.これを明らかにするため,本年度は,地下進出の過程を反映すると考えられるチビゴミムシ亜科3種:よく発達した複眼を持つ地表性の種,痕跡的な複眼を持つ地下浅層性の種,複眼を完全に消失した洞窟性の種に着目した.これらのゲノム配列とトランスクリプト配列を取得し,像の形成に必要な複眼の色素である,オモクローム合成経路の遺伝子と,色覚や光受容に関わるオプシン遺伝子について調べた.その結果,地下浅層性の種ではオモクローム合成経路の遺伝子が偽遺伝子化しており,洞窟性の種ではオモクローム合成経路の遺伝子とオプシン遺伝子が偽遺伝子化していることが分かった.また地下浅層性の種は,赤色/緑色/青色/紫外光を照射した時に,暗所と明所のどちらを選好するか実験した.その結果、赤色/緑色/青色光を照射した時は選好性が見られなかったが,紫外光を照射した時は暗所を選好することが分かった.以上のことから,地下浅層性の種では像を形成する機能が退化し,色覚や光受容の機能は保持すること,洞窟性の種では色覚や光受容の機能も退化していることが示唆された.チビゴミムシの地下進出において,像を形成する機能が先に退化し,その後色覚や光受容する機能が退化したという順序があるかもしれない.これらの結果をまとめプレプリントサーバーであるbioRxivに掲載した.現在は学術雑誌の査読中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、地下性チビゴミムシを対象に視覚の退化過程と、その一方で発達した形質について解き明かそうとしている。本年度は、当初考えていたよりも複数のチビゴミムシを採集できたことで、複眼が発達している種、痕跡的な種、完全に消失した種の比較ゲノム解析をすることができた。3種のゲノムスキャフォールドは、昆虫綱におけるコア遺伝子の約95%以上を含んでおり完全性が高いこと分かった。ゲノムに加えて、成虫期の全身からトランスクリプト配列も取得し、光受容や光伝達、像の形成に関わる遺伝子の転写や偽遺伝子化、それらの選択圧について記述した。本研究計画の半分は達成できていることを考えれば、現在のところおおむね順調に研究を進められていると思う。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、地下進出に伴い発達したと考えられる形質に着目し研究を進める。新たにロングリードシーケンスを実施し、より長いゲノムスキャホールドを取得する。ロングリード用のDNA抽出を行い、PCR増幅を行わない方法でライブラリーを作成し、ナノポアシーケンスする予定である。取得できたゲノムスキャフォールドを用いて、地下性のチビゴミムシでコピー数を拡大させた多重遺伝子族を明らかにすることをゴールとする。
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