本年度は北海道東部・北部の河川を中心に、合計60地点以上でサケ科魚類イワナとオショロコマをつかまえ、寄生虫検査を行った。多くの地点でイワナの口にはミヤマナガクビムシが、オショロコマのエラにはオショロコマナガクビムシが寄生していた。またオショロコマの一部は水カビと思われる卵菌類に寄生されていた。本年度は魚類の捕獲許可を得た時期が遅かったため、他に着目していた寄生者であるコガタカワシンジュガイ幼生(以下、コガタ)の寄生時期には間に合わなかった。昨年度取得した野外調査データも併せて解析したところ、アメマスではミヤマナガクビムシの寄生数と宿主の肥満度の間に負の相関は認められたものの、オショロコマではそのような相関は認められなかった。また温度条件ごとに寄生者が宿主の肥満度に与える影響を検討したところ、アメマスでは、冷水域かつコガタと共感染された個体でミヤマナガクビムシ1匹あたりの肥満度の低下度合いが大きくなる傾向があった。以上の結果は、複数種の寄生者による共感染の負の影響は、温度といった文脈依存で変わる可能性を示唆する。こうした結果は国内外の学会やセミナーなどで発表した。 現在、本年度および昨年度に持ち帰った冷凍標本を解剖し、内部寄生虫群集のデータ化に取り組んでいる。これまでに両イワナ類の体内からは線虫類や鉤頭虫類を発見している。こうした寄生虫の寄生率・寄生数は調査地点間で大きく異なり、今後は外部寄生虫の分布と併せて解析・考察していく予定である。 昨年度達成したニュージーランド・オタゴ大学での滞在中に開始した研究は、引き続き解析・執筆に取り組んでいる。上記解析結果および本国際共同研究の内容の一部は博士論文として執筆した。こうした研究に予想以上の時間を要したため、予定していた野外操作実験は行うことができなかった。
|