環状ペプチドは、その特有な3次元構造から高い代謝安定性や標的特異性が期待できるため、中分子医薬品シーズの中心的存在として注目を集めている。しかし、環状ペプチドの化学合成は反応制御が難しく、鎖状ペプチドの大環状化の際には、C末端残基のエピメリ化や競合する分子間縮合により収率が大幅に低下する等、供給面に多くの課題を抱えている。一方で、我々はこれまでに、放線菌により生産される非リボソーム型環状ペプチドsurugamide類の生合成から新しいタイプのペプチド環化酵素SurEを同定し、詳細な機能解析により本酵素のペプチド環化触媒としての有用性を明らかにしてきた。今年度では、前年度にて確立したエチレングリコールを利用した鎖状ペプチド基質の合成法と寛容な基質選択性を有するペプチド環化酵素SurEを活用したhead-to-side chain型環状ペプチド(ラリアット型ペプチド)の効率的な化学―酵素合成法の確立を目指し、研究に着手した。本研究は概ね予定通りに進捗し、酵素反応に用いる分岐型基質を高純度かつ高収率で調製できる合成手法を確立することに成功している。また、得られた基質の粗精製物を直接SurEの酵素反応に供することで、所望のラリアットペプチドを高化学選択的に酵素合成することに成功した。これにより、合成初期から終盤にかけて精製作業を一度も行うことなく、所望のラリアット型ペプチドを効率的に調製できる化学―酵素ハイブリッド合成法を確立することに成功した。さらに、本手法にセリン/スレオニンライゲーションを組み合わせることで、ラリアットペプチドの合成と後続の誘導体化をシームレスに実施できる手法を確立した。本研究成果は、ラリアット型ペプチドの効率的合成法を提供するだけでなく、化合物ライブラリーの構築やシード化合物の効率的な創出に貢献できることが期待される。
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