研究課題/領域番号 |
22J13820
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
池田 雅志 北海道大学, 理学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 地衣類 / バイオマーカー / 化学分類 / 有機質微化石 / 芳香族フラン / 菌類 / 分子化石 |
研究実績の概要 |
本研究では、地衣類分子化石(バイオマーカー)を探索、指標の開発を行うことで、体化石として保存されづらい地衣類の出現時期や古生態の復元を目標とした。地衣類は先カンブリア時代に出現して陸上生態系の初期進化の担い手である可能性が指摘されていて、そのような年代の堆積岩中に保存されている形態の分子、つまり高い熟成作用を受けて構造変化したバイオマーカー分子を推定・考慮して探索する。今年度における研究成果は以下の通りである。 1.生体試料の脂質分析を行い、地衣類バイオマーカーとして利用可能な特異的な化合物の探索を行った。試料からは多様な不飽和炭化水素が検出され、これらの組成が地衣類の共生藻の違いに起因しており、化学分類に利用できることを明らかにした。また、大部分の地衣類が共生藻として持つTrebouxia属やAsterochloris属を有する地衣類からはそれぞれ特異なheptadecadieneが検出され、堆積物中での有力な地衣類バイオマーカー候補として、これらの成果を国際誌に一報公表した。 2.南仏、北米、南米、日本の白亜紀海洋無酸素事変の各層準での菌類パリノモルフ(有機質微化石)分析を行い、古環境変動に対する菌類フロラの変遷を復元した。菌類フロラの変遷は地域毎に異なる結果となった一方で、先行研究や他のバイオマーカー指標との比較から植生の変化に菌類フロラが大きく影響を受けていることが示唆され、後背地の古環境復元指標に利用できる可能性を見出した。 3.グリーンランド中原生界堆積岩のバイオマーカー分析を行い、多様な芳香族フラン類を検出した。これらの化合物の組成は層準毎に大きく変化しており、起源生物の寄与の変化が要因と考えられた。起源についてはより詳細な検討が必要ではあるが、現代においては、自然界における芳香族フラン類の主たる産生生物である地衣類のような生命体が存在した可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体試料を用いた研究においては、泥炭地におけるフィールドワークを実施し、サンプル数の拡充、統計解析による検討も加えたことで、地衣類バイオマーカー候補の探索作業が進展し、論文としてデータをまとめることができた。同じく、中原生界の堆積岩を用いたバイオマーカー分析では、地衣類起源としても議論されている多様な芳香族フラン類を検出し、有機質微化石の結果との対比も行ったうえで、成果を国内学会で発表した。 一方、予定されていたブラジル沖での国際深海科学掘削(IODP Exp. 388)航海が中止となり、完遂済みの北半球太平洋沿岸(北米・日本セクション)の白亜紀海洋無酸素事変時の陸域古環境変動との比較が実現できなくなった。しかし、代替として共同研究者によって南フランス、ブラジルの露頭試料の提供を受け、結果として太平洋(北米・日本)・テチス海(南フランス)・古大西洋(ブラジル)の各地域の菌類フロラの変遷を復元・比較することができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2023年度は、熟成シミュレーション実験を行い、上述の泥炭地で採取した堆積物試料との比較から地衣類起源有機物の堆積物中での挙動を明らかにしていく。特に地衣成分として知られている種々の芳香族フラン類の続成過程に着目することで低熟成度の試料のみならず、高熟成帯の堆積岩にも適用可能な地衣類バイオマーカーの探索を行う。また、前述の結果も用いて、堆積岩における地衣類指標を検討し、陸上高等植物・菌類・地衣類を含めた陸上生態系の包括的な変動復元を行い、地衣類の古生態について考察を行う。これらの成果は国内外の学会で発表、研究者との議論を重ね、論文として国際誌に投稿する予定である。
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