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2022 年度 実績報告書

高山性ツツジ科植物における交配システムの進化:近交弱勢と資源制限の均衡

研究課題

研究課題/領域番号 22J20087
配分区分補助金
研究機関北海道大学

研究代表者

高橋 佳吾  北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2022-04-22 – 2025-03-31
キーワード高山植物 / 繁殖生態 / 結実 / マルハナバチ
研究実績の概要

高山植物の多くは虫媒花であり、他家受粉によって種子生産を行っている。季節によって訪花昆虫の送粉効率は変化するので、同じ植物種であっても開花時期の異なる集団間では受粉成功度が異なり、それに応じた繁殖特性が集団毎に進化している可能性がある。本研究の目的は、高山性ツツジ属植物であるキバナシャクナゲを用いて、自殖と他殖のバランスが風衝地集団と雪田集団で異なるかどうかを明らかにすることである。開花時期の早い風衝地集団はマルハナバチの越冬女王に、開花時期の遅い雪田集団は働きバチに訪花される。働きバチは花間移動距離が短いため、同じ株内での自家受粉の機会が高いと予測される。そのため、「自家花粉と他家花粉の混合受粉が常態化している雪田集団では、混合受粉に適応した交配システムを有している」という仮説を設定し、その検証を行った。
研究初年度の2022年度は、各集団の交配システムについてのデータを収集した。大雪山系高山帯での訪花観察、結果率・結実率計測、花・果実・種子の形質の集団間比較、ならびにマイクロサテライトマーカーを使った種子の自殖率に関する遺伝解析を行った。
今年度はマルハナバチ越冬女王の訪花頻度が例年に比べて非常に低調であった。一方で、雪田集団は働きバチによる頻繁な訪花を受けていた。風衝地集団と雪田集団で花序あたりの花数と果実あたりの胚珠数を比較したところ、花数は雪田集団、胚珠数は風衝地集団の方が有意に多かった。これは人工受粉実験を実施する上で非常に重要な知見となった。
分子実験ではおよそ720個の種子からDNAデータを得た。平均他殖率は風衝地集団の方が有意に高かった。先行研究(Hirao et al. 2006)からキバナシャクナゲに特化したマーカーを追加したことで、当時検出が難しかった違いを検出できたと思われる。
以上の成果は2023年3月開催の日本生態学会でポスター発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の全体的な研究計画では、キバナシャクナゲの訪花観察、人工受粉実験、胚珠数の集団間比較、他殖率の集団間比較、発芽実験、生育実験を予定していた。2022年度は人工受粉実験の前提となる果実あたりの胚珠数について調べた。その結果、予想した通り、風衝地集団の胚珠数は雪田集団よりも多いというデータを得られた。更に、花序あたりの花数は雪田集団の方が多く、花数と胚珠数のトレードオフは風衝地集団でのみ見られるという新たな情報も入手した。2023年度はこれらの知識と経験を活かし、北海道大雪山系の赤岳で人工受粉実験を行えるように準備している。
マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析も問題なく進行した。先行研究で使用されていたマーカーを選別し、ここ数年で新しく開発されたキバナシャクナゲ専用のマーカーを追加した。2022年度は風衝地集団と雪田集団の自然繁殖で他殖率に違いがあることを明らかにできた。2023年度は自然状態の他殖率に加え、混合受粉実験で得られた果実の他殖率も調べる予定である。
また、風衝地集団と雪田集団の種子を用いて発芽実験を実施した。人工気象器に3段階の温度を設定し、発芽と子葉展開の様子を経過観察した。シャーレに濾紙を敷く方法でデータを取れることを確認できた。2023年度は自殖種子と他殖種子で発芽率に差があるかを知りたいと考えている。

今後の研究の推進方策

人工受粉実験から発芽実験までは研究計画に沿って進めるつもりである。実生の生育実験は予備実験をしていないが、同じツツジ属植物であるヤマツツジの栽培経験を活用する。
高山帯での調査は予期せぬトラブルが付き物である。天候不順が長く続くことも想定される。もしも人工受粉実験が順調に進まなかった場合、2023年度は以下のテーマに沿って研究活動を遂行する。
学会発表を経て貴重なコメントを幾つか頂いた。それを踏まえ、「キバナシャクナゲの風衝地集団は雪田集団よりもクローンパッチのサイズが小さく、そのせいで花生産に制限が掛かっている」という仮説を思い付いた。匍匐枝が絡み合っているキバナシャクナゲの分集団をパッチと定義し、そのサイズを測る。50cm間隔で葉を採取し、遺伝解析でクローン判定をする。標高、開花期、サイズ、花序数、花序あたりの花数、構成個体数をパッチごとにデータ化し、どのような傾向が見られるかを解明する。
人工受粉実験が実行できた時も、サンプリングを絞ってではあるが、これらの作業を試みるつもりでいる。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2023

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 高山環境に生育するキバナシャクナゲの結実特性:風衝地集団と雪田集団の比較2023

    • 著者名/発表者名
      高橋佳吾、工藤岳
    • 学会等名
      日本生態学会仙台大会

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公開日: 2023-12-25  

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