研究課題/領域番号 |
22KJ0104
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
間藤 昂允 北海道大学, 情報科学院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
キーワード | マイクロプラスチック / 超電導マグネット / 無絶縁コイル / 熱的安定性 |
研究実績の概要 |
初年度は高温超電導マグネットを利用した海中マイクロプラスチック回収装置の実現可能性調査を行い,非常に大きな磁場 (15 Tかつ13 T/m)を利用して84%の分離率を達成できることが明らかになった.一方,磁場の発生領域として長さ1.5 m,高さ0.4 mの大空間にわたって磁場を生成する必要があり,このような高磁場を広範囲に生成できる超電導マグネットの設計およびその要素技術の開発が次なる目標である.2023年度は大規模超電導マグネットの設計を見据え,熱的安定性の設計手法および測定技術の調査を行なった.まず,安定性評価を効率的に行うことができる設計手法の開発・提案を行なった.従来手法では電気・熱等価回路を数値的に解くことで無絶縁高温超電導マグネットの安定性を詳細に解析する.これは要する時間が非常に長く,今回必要とされるような新規形状の零次設計には不向きである.無絶縁高温超電導マグネットを簡易的に抵抗とインダクタンスの並列回路として表し,電流およびコイル温度を解析的に導出することで,計算時間の大幅な短縮および簡便化を達成した. また,大型超電導マグネットを設計する際はマグネット保護の観点から無絶縁巻き手法を採用することが考えられる.無絶縁巻きマグネットにおける熱的安定度は層間接触抵抗と呼ばれるコイルパラメータにより決定されるが,従来手法では電流依存性を測定することができない.これを可能としたLFAC (low-frequency AC)法の大型コイルに対する適用性を検討した.上下パンケーキコイルで異なる接触抵抗を有するダブルパンケーキ (DP)コイルに対して交流を印加し,得られたコイルインピーダンスより,十分な精度でそれぞれの層間接触抵抗を特定することに成功した. DPコイルでは事前検討よりも高調波や遮蔽電流の影響が少なかったが,さらなる大型化に向け影響を調査しなければならない.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は海中マイクロプラスチック回収に必要な磁場を明らかにし,高強度・高勾配磁場を生成できる高温超電導マグネットの技術開発を優先的に進める必要があるとわかってきた.達成すべき技術は複数に分枝するが,本年度 (2年目)は特に熱的安定性およびその設計に関する要素技術から研究を進めた.今後行うマグネット設計やコイル製作に向けた実用的な研究を実施してきており,順調な成果を挙げることができたと言える. 最終的な展望として熱的安定性と同時に機械的安定性の評価が設計上重要になる.本年度は米国国立強磁場研究所に7ヶ月滞在し,高温超電導磁石の高磁場化で問題となっている第2世代高温超電導線材の剥離強度について調査を行った.試験の結果から,機械的により有利な線材およびその剥離形態について知見を得た.機械的評価について比較的ミクロスケールの知見を得た一方,コイル規模での機械的安定性や特性の検討に向けた研究がより必要である.すなわち,勾配磁場によってマグネットに生じる応力の評価や補強構造の設計など機械的安定性の評価が未だ終わっていないため,概ね順調との評価とした.
|
今後の研究の推進方策 |
非常に大きな勾配磁場を必要とするため,機械的設計についても検討を始める必要がある.実現可能性の有無に関わらず熱的設計・機械的観点から設計を行い,目標達成までの道筋を明らかにする.さらに,これまで熱的安定性に関する要素技術を調査・開発してきたが,機械的安定性についても対象範囲を広げていく.具体的には,近年問題となっている超電導マグネットに生じるミクロな破損について電磁現象的観点から解析を行い,現象の把握・対応策の考案に努める.また,大型マグネットが予期せず熱的に故障することは最も避けたいことの一つであり,非常に安定な設計を目指す必要がある.コイルの熱的安定性向上と同時に,より頑健な超電導マグネットシステムを目指してコイルの異常検知についても技術開発を進める.
|