研究課題/領域番号 |
22J20339
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
貴堂 雄太 北海道大学, 文学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 社会規範 / 規範心理 / 協力の進化 / 文化進化 / 協力の文化差 / 文化的集団淘汰 |
研究実績の概要 |
研究1. ヒトはあらゆる動物種の中で唯一血縁関係を超えた大規模協力社会を実現した。社会学者は、この背景に社会規範とそれを内面化し遵守する人間の特性があるとした。しかし、この「過剰に社会化された人間観」は目的論的であるとされ、規範を内面化する心理(以下、規範心理)がなぜ人間に備わったのか、その機能については未だ明らかにされていない。そこで本研究では、文化的集団淘汰のフレームワークの下で理論モデルを構築し、規範心理が協力行動と共進化した可能性を探った。その結果、規範が非協力者への罰行動を奨励する場合、規範心理の進化とともに協力集団が創発し、大規模協力社会が形成された。さらに、多数派の行動を規範として認知し従おうとする同調心理が、他のドメインにおいて進化し協力のドメインに持ち込まれた場合、大きな文化差を生み、罰規範に基づく協力社会の足場を提供する可能性が示唆された。これらの結果は、ヒトの社会化能力が持つ機能的な意義に理論的な示唆を与えるものである。
研究2. 協力行動は、ジレンマ構造を有する。すなわち、協力的な個人は非適応的であるが、協力集団は非協力集団と比べ、適応的となる。この性質により、文化的集団淘汰理論は、文化的なプロセスによって、協力行動が集団の境界を超えて広まったと提唱する。その道筋の一つが他集団の成功者模倣プロセスである。つまり、非協力的な集団に属する成員が、協力的な他集団の行動を模倣し、協力行動が集団を超え伝達される可能性である。研究2では、実験室実験を用いて、この可能性を実証的に検討した。その結果、公共財問題ゲームにおいても、協力的な集団の行動を模倣する文化進化的なプロセスによって、協力行動が集団間に拡散する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までに行った人間の規範学習能力と協力行動の共進化の可能性について検討した進化シミュレーション(研究1)のデータ分析を行った。その結果、社会学者が従来提唱してきた社会化理論の妥当性を、生物学的な文化的集団淘汰のフレームワークの下で理論的に検討した。その成果をオンラインで開催された日本グループ・ダイナミックス学会第68回大会English Session及び、Aarhus University (Denmark) で開催されたCultural Evolution Society Conference 2022にて報告した(いずれも口頭発表、査読あり)。日本グループ・ダイナミックス学会第68回大会では、優秀学会発表賞を受賞した(貴堂雄太・竹澤正哲『Coevolution of norm-psychology and cooperation under exapted conformity』)。そして、一連の結果は論文としてまとめている。 また、協力行動の文化進化プロセスによる集団間への拡散の可能性を検討した研究2に関する追加実験を行った。具体的には、6月に大規模な集団実験(N=152)を実施し、ベイズモデルによる分析を行った。この成果については、日本社会心理学会第63回大会、日本人間行動進化学会第15回大会にて報告した(いずれも口頭発表、査読あり)。 さらに、コミュニケーションが協力の実現にもたらす効果を、共有知識としての社会規範の役割から解明するための実証研究のパイロット実験(N=79)を8月に実施した。 こうした研究の進捗並びに成果を踏まえると、当初の計画以上の研究の進展があったと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、研究1をまとめた論文を投稿する。 さらに、研究2の追加実験を実施し、こちらもこれまでの成果を英語論文としてとりまとめる。 そして、研究1を拡張した進化シミュレーションを実施する予定である。具体的には、外生的に与えられ世代を超えて不変であると仮定されていた集団規範が、集団内で創発し変化するという内生的過程を新たに加える。その結果、協力を奨励するキリスト教という規範が生まれ、その規範共同体が拡大したことで、協力的な社会が普及したというような歴史的過程が再現されるのだろうか。こうした規範を中心とした協力進化の可能性を理論的に検討する。
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