研究課題/領域番号 |
22J20578
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
張本 尚 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | カチオン / アセン / レドックス特性 / 近赤外吸収 / キノジメタン / 色素 / 炭化水素 / エレクトロクロミック分子 |
研究実績の概要 |
本研究に先立って、アントラキノジメタン(AQD)誘導体を分子内に二つ縮合したビスキノジメタン(BQD)誘導体の特異なレドックス挙動を明らかにし、アセン構築とその構造制御に電気化学的刺激が有効であることを実証している。そこで得られたビスキノジメタンが持つレドックス特性を踏まえ、その特異な分子構造とそれに基づくdyrex特性を利用することで革新的な研究展開の推進が可能である。昨年度に引き続き、これらレドックス系のHOMO/LUMO制御から着手した。すなわち、新たなアプローチによりジカチオンの分子構造及びLUMO準位を制御すべく,4-メトキシフェニル基のオルト位に様々な置換基を導入した一連の誘導体を設計・合成した。X線結晶構造解析及びUV-Vis-NIRスペクトル測定の結果,中央骨格に対する二面角が変化することで,メチリウムのLUMO準位の低下及びメチリウムと[3]アセン間のICT相互作用の増強が示唆された。実際に,新規ジカチオンでは,NIR吸収帯の長波長化(~1,100 nm)が観測されたことに加え,そのモル吸光係数は母体に比べて大幅に増大した。以上より,4-メトキシフェニル基のオルト置換基の立体的・電子的効果の制御により,ジカチオンのLUMO準位を緻密に変調可能なことを実証した。加えて、HOMO準位の変調によってもNIR吸収帯の制御は可能であると考え,QDユニットをさらに複数集積した中性オリゴキノジメタン(OQD)の構築した。OQDの多電子酸化還元を制御することにより、高度なレドックス応答系の創出が可能となる。また、多段階の二電子移動を制御可能な足場としてBQD骨格を捉え,供与性の異なる二種類の置換基を含むハイブリッド誘導体を新たに設計した。検討の結果,これら誘導体は開殻性の電荷状態を経由しない安定な多色エレクトロクロミック分子(EM)として機能性材料への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、キノジメタンユニットに基づくレドックス系において、そのHOMO/LUMO準位を、分子の構造的・電子的特性により変調可能であることを実証した。加えて、これらのカチオン状態との近赤外吸収のスイッチングを実現した。NIR領域の吸収特性を変調可能な有機エレクトロクロミック分子の報告例が限られており、分子内に含まれるアセン構造を電気化学的刺激により制御することで、エレクトロクロミック材料やイメージングプローブ、センサー材料などへの応用も期待される。
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今後の研究の推進方策 |
独自に開発した電気化学的アプローチに、オルト置換アプローチを組み合わせることで、オリゴカチオン性高次アセンのさらなる安定化をはかり、その単離を目指す。加えて、自身が構築した新規前駆体を足掛かりとした未踏OQD誘導体の構築と、続く化学的酸化により、更にπ拡張された高次アセンを高収率かつ安定に単離する。独自のアプローチで開発した高次アセン誘導体は、特異な環境下でなくても安定に取り扱えると予想され、レドックス応答により構造及び物性を自在に変調可能な化学種として多様な研究展開へと活用する。
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