研究課題/領域番号 |
22J21989
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
角井 建 北海道大学, 情報科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 系統地理 / 地下性哺乳類 / 全ゲノム / 第四紀 / デモグラフィー |
研究実績の概要 |
日本産モグラ科哺乳類を対象に、リファレンスゲノムを作成してその遺伝的な研究基盤を築き(計画1)、集団ゲノミクス解析によって第四紀環境変動や種間競争が集団形成に与えた影響を解明し、日本の哺乳類の系統地理における一つの指標とする(計画2)。またモグラ類の地下適応に関連する遺伝子を探索・解析する(計画3)。 計画1および計画2について、2022年6月に10x Linked ReadsおよびOmni-C技術によるコウベモグラの全ゲノム解析をおこない、便宜的なリファレンス配列とした。MIG-seqで取得したリードデータをマッピングすることでリファレンス配列を用いない解析に比べて3倍近いSNPデータを取得することが可能となった。得られたSNPデータをもとにアズマモグラとコウベモグラ集団の遺伝的構造、および集団ごとの分岐シナリオ・分岐年代の推定をおこなった。その結果、mtDNAを用いた先行研究とは一部異なる集団構造が存在することが示され、両種の分岐シナリオに新たな知見を供することとなった。また、分岐年代に関しては先行研究とも一致する結果が得られ、アズマモグラ集団の分断化、コウベモグラの日本列島への移入などの集団分岐と地理的イベントの関連性を見出すに至った。この成果は現在論文として執筆中である。これは日本と大陸を繋ぐ陸橋が形成された時期を考察するうえで重要な情報となり得、他の哺乳類にも影響を与えたと考えられる。また、隠岐の島島後卯敷地区にて未発見のアズマモグラの集団を発見し、これを短報の形で報告した。 計画3について、全ゲノム解析とともにおこなったRNA-seqをもとにした遺伝子アノテーションとリファレンス作成を報告する論文の執筆計画が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りコウベモグラの全ゲノム解析をおこなったことで、モグラ属(Mogera)のリファレンス配列として、他のMogera属のゲノム配列をマッピングしたり遺伝子のアノテーションをおこなったりするほか、哺乳類の地下適応など進化的に重要なイベントの起源を探るうえでも遺伝的な研究基盤となることが期待される。また、計画3を実施するうえでも必要不可欠な要素であり、地下生活者にとって特に重要と思われる嗅覚・味覚・フェロモン受容体遺伝子についてのアノテーションは実施済みである。 研究計画で予定していたヒミズ類(ヒミズ・ヒメヒミズ)のリファレンス作成は使用できるサンプルがないため取りやめている。また、モグラ頭骨のマイクロCTスキャニングについてはGeometric morphometricsによる形態測定を計画中である。 以上のように、予定通りに進んだ部分に加え、アズマモグラの個体群の発見という予定外の成果があり、研究の計画通りでない部分については可能な範囲での補完を計画しておりおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
コウベモグラの全ゲノムをシーケンシングしてリファレンスゲノムを作成し、これを論文として発表する。これに並行してアズマモグラ・コウベモグラのMIG-seqによるSNPデータを用いた集団解析について、第四紀の環境変動に焦点をおいて論文として発表する。 また、17個体分のリシーケンスデータを用いてPSMCを実施し、前述の集団解析で明らかになった各個体群の集団サイズの変動を明らかにし、過去の環境変動がもたらしたモグラへの影響を考察するとともに、リファレンスゲノムからコウベモグラとアズマモグラの遺伝学的差異について考察する。以上より両種の分布を決定づけた生物学的・非生物学的要因の特定を試みる一方で、同様にリファレンスゲノムからモグラ類の地下適応に関わった遺伝子群の特定を試み、進化学的観点から哺乳類の地下適応について考察をしていく。これらの論文受理を目標に原稿を作成しつつ研究を進めていく。
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備考 |
2023/02/01, 山陰中央新報, 21面 (https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/333407)
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