研究課題/領域番号 |
22J22297
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川久保 修佑 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | ウイルス学 / 進化 / 宿主適応 / 植物病理学 / 分子系統学 / 混合感染 / RNAサイレンシングサプレッサー / ベイズ推定 |
研究実績の概要 |
ウイルスは、宿主や取り巻く環境に適応しながら進化するため、混合感染時のウイルス間相互作用も自身の進化に大きく影響を与えてきたと考えられる。ニンニクには、多くのウイルスが頻繁に混合感染しているが、中でもリーキ黄色条斑ウイルス (LYSV)は、ニンニク産業に大きな被害を与えている重要病原ウイルスである。LYSVは自身がコードするP1タンパク質のN末端に68アミノ酸の欠失を持つタイプ(S-type)と持たないタイプ(N-type)に分けられる。北海道で栽培されていたニンニクを調査すると、両タイプが混合感染しているニンニクが新たに発見され、分子系統解析の結果、S-typeは北海道外から侵入してきたことが明らかとなった。また、LYSVは、宿主のウイルス防御応答を抑制するRNAサイレンシングサプレッサー(RSS)であるHC-Proを持ち、P1はその機能を促進する因子であることが知られている。そこで、両タイプのP1およびHC-Proを植物細胞内で発現させ、RSS活性を測定した。タマネギ表皮細胞を用いた場合、S-typeのP1はHC-Pro非存在下でも単独で強力なRSS活性を示し、この活性はN-typeでは認められなかった。また、フィールド調査より、本州に分布するS-typeは、栽培ニンニクだけでなく、野生植物からも容易に見つかることが明らかになった。これらの結果より、S-typeはP1の一部を欠失させたことにより、高いRSS活性を有し、N-typeよりも広い宿主域を持つように進化してきたことが示唆された。S-typeは現在一部地域のみでしか分布が報告されていないが、N-typeとの混合感染が可能であることからも、今後集団構造が変化する可能性もあると思われる。 以上については、論文として公表し、国際誌The Plant Pathology Journalに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、混合感染しているウイルスが持つ進化的戦略を描出することができた。 また本研究成果をまとめた論文は、既に国際誌The Plant Pathology Journalに掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究成果より、ウイルスのRSS活性が宿主適応に大きく関わっていることが示唆されたため、ポティウイルスとネギ属植物の共進化機構の要因にも迫れる可能性が新たに見出された。引き続き、混合感染時のウイルス間相互作用がウイルス進化にどのように影響を与えているのかについて研究を進めていくとともに、今後はウイルスと宿主の相互作用がどのように互いの進化を推進してきたのかについても迫りたい。
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備考 |
令和5年度版学習資料「一家に1枚 ウイルス」製作監修
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