研究課題
本研究の目的は,ネコ科動物だけがマタタビに特異的に反応する分子メカニズムを明らかにすることである。本年度は【研究1】マタタビ活性物質であるイリドイド化合物群の受容体を嗅神経細胞から探索,【研究2】イリドイド受容体を家系内変異解析によって同定,および先進ゲノム支援のもと行った【研究3】ネコ嗅覚器における化学受容体の発現量解析により,マタタビ活性物質受容体候補の絞り込みを目指した。具体的な研究成果を以下に記す。【研究1】イリドイド化合物群の受容体を嗅神経細胞から探索:今年度は,研究室内で寿命や予後不良により死亡し検体にできるネコ個体がいなかったので,マウスの嗅上皮からイリドイドに応答する嗅神経細胞の単離およびその細胞で発現している嗅覚受容体の特定を目指した。マウスから嗅上皮を採取し,単細胞懸濁液を調製し,生細胞が採取されていることまで確認できた。【研究2】イリドイド受容体を家系内変異解析によって同定:マタタビ反応が常染色体顕性遺伝するとの先行研究から,片親が陰性個体である陽性の子ネコは,陽性親から受け継いだ機能的なマタタビ反応原因遺伝子と,陰性親から受け継いだ機能欠損遺伝子をヘテロで保有していると考えられる。そこでヘテロ個体を産出するため,研究室内でマタタビ反応陽性雌ネコと陰性雄ネコを交配して1産仔を得た。この子は性成熟し,マタタビ反応陽性とわかったが,子ネコが生まれた数か月後に父ネコがマタタビ反応するようになってしまい,子ネコがヘテロ個体であると断定できなくなってしまった。【研究3】ネコ嗅覚器における化学受容体の発現量解析:ネコのゲノム上に嗅覚受容体は約900個存在するが,マタタビ反応陽性個体を含む6頭のネコの嗅上皮のいずれにおいても発現が確認されない,もしくは発現量がごくわずかであった受容体は半数以上存在した。よってこれらの受容体はイリドイド受容体候補から除外した。
2: おおむね順調に進展している
ネコで有力なイリドイド受容体候補をいくつか見出すことはできたが,マタタビ反応陽性雌ネコと陰性雄ネコを交配させヘテロ陽性個体を産出することに失敗するなど,未だイリドイド受容体の特定には至っていないため。
【研究1】については,引き続きマウスの嗅上皮(および,予後不良なネコが現れた場合ネコの嗅上皮)からイリドイドに特異的に応答する嗅神経細胞の単離および嗅覚受容体の特定を目指す。【研究2】については,研究室外のネコで片親が陰性個体である陽性個体を探したので,その個体の全ゲノム配列を次世代シーケンサーで解読し,各染色体に由来する父由来と母由来のゲノム配列の再構築を試み,化学受容体遺伝子とその近傍の配列の中から,対立遺伝子を形成するものを探索する予定である。また,新たに繁殖可能なマタタビ反応陰性ネコを選定し,陽性ネコと交配させてヘテロ陽性個体の産出を試みる。イリドイド受容体候補が絞り込めたら,【研究4】でその受容体を培養細胞で発現させ,レポーター遺伝子アッセイ系でイリドイドに対する応答性検証試験を行い,ネコにマタタビ反応誘起活性のある複数のイリドイドに対して特異的に強く応答し,ネコに活性のない化合物には応答しないか調べる。さらに陽性個体と陰性個体のDNAサンプルを集め,陽性―陰性間でイリドイド受容体候補のアミノ酸配列多型が存在するか,また多型によって培養細胞発現系でイリドイド応答性が異なるか調べ,マタタビ反応個体差の原因を説明できるか検証する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
New Phytologist
巻: 237 ページ: 2268~2283
10.1111/nph.18699
iScience
巻: 25 ページ: 104455~104455
10.1016/j.isci.2022.104455
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