研究課題/領域番号 |
19J00864
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
笠田 実 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(CPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2024-03-31
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キーワード | 数理モデル / 個体群動態 / 表現系可塑性 / 進化 / 適応 |
研究実績の概要 |
2020年度は2019年度の実験結果をもとに、微分方程式を利用した数理モデルを構築した。数理モデルで再現した生態系は、実験で行った系と同様に、動物プランクトン、植物プランクトンおよび植物プランクトンに寄生するツボカビからなっている。この数理研究では、実験系を直接行うことの難しい、生物の適応進化が、どのように様々な種間相互作用(捕食-被食、ホスト-パラサイト、競争)を同時に含む生態系の長期間動態に影響するかを観察した。この研究では、動物プランクトンへの適応とツボカビへの適応の間には、サイズに関するトレードオフを仮定されている。その結果、植物プランクトンが動物プランクトンとツボカビに対して異なる進化応答を示す場合、動物プランクトンとツボカビが、予想されるような競争的な関係だけでなく、パラメータ条件によっては、お互いがよりよく成長するような協力的な関係となることがわかった。 また、種間相互作用が環境変動下でどのように相互作用をしているかを明らかにするために、自然選択によって進化する生物と、自然選択なしに環境応答によって形質が可塑的に変わる生物を、変動環境下で競争させる微分方程式を用いた数理モデルを構築した。数値計算の結果、進化と可塑性のどちらが有利になるかは、可塑性に伴うコストと環境変動の時間スケールに応じて、複雑に変化することが分かった。さらに、この結果は、環境変動の時間スケールに応じた異なるメカニズムによって引き起こされていることがわかった。これにより、形質変化の速さに基づく直感的な予測と実験結果の違いを、環境変動の時間スケールによって説明することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は2019年度の実験結果をもとに、微分方程式を利用した数理モデルを構築した。その後、構築したモデルの解析をコンピュータの数値シミュレーションを用いて行なった。シミュレーションでは、システムを構成する仮想の生物の生理的なパラメータを変化させ、それが個体群動態や種構成がどのように影響するかを計算した。2019年度から続くコロナ禍の影響もあって、当初の計画よりも遅れが生じ、結果のまとめ及び成果の発表を次年度に繰り越すこととした。2021年度に結果はまとめられ、研究成果の発表をDynaTrait Annual Meeting 2021において行うことができた。また、生物の適応戦略が環境変動下でどのように種間相互作用に影響を及ぼすかを明らかにした論文をPopulation Ecology誌上で発表した。これにより当初のモデル研究の計画を完遂することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、引き続き数理モデルの解析を行う。それと並行し、これまでに学会等で発表してきた成果を国際誌に論文として発表していく。また、国際共同研究として、フィールド調査で得られたデータの解析も進めていく予定である。さらに、状況を見ながら、これまでのコロナ禍の影響によって中断していた、新たな実験システムの構築も視野に入れて、研究をおこなっていく予定である。
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