研究課題/領域番号 |
21J00020
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 大樹 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 動物と植物の相互作用 / 屋久島 / 矮小進化 / 集団動態解析 / 被食防衛 / ヤクシカ |
研究実績の概要 |
本年度は広範な分類群を用いて屋久島の矮小植物群の成立にヤクシカの採食圧が影響したかを検証するためのサンプリングと遺伝実験、その解析を主に行った。5月から10月にかけて野外調査を行い、屋久島高山域、霧島山系、白岩山、祖母・傾山系、尾鈴山系、石鎚山系より屋久島集団とその近縁種や近縁集団の採集を行った。標本データも加え40分類群ペア計1971個体分の植物体サイズを測定したところ、シカの嗜好性種では近縁集団との形態差が大きく、不嗜好性種では形態差が小さい傾向を示した。さらに各分類群ごとに矮小化指数を算出し、シカの嗜好性や標高差、降水量の差などと合わせて一般化線形モデルを用いて解析を行った。その結果シカの嗜好性が屋久島の植物の植物体サイズに強く影響していることが明らかになった。また採取したサンプルからDNAを抽出し、MIG-seq法を用いてゲノムワイドなSNPs情報を取得した。26分類群ペア計819個体からデータを取得し、コアレセントシミュレーションを用いた分岐年代推定を行ったところ、対象種の半数以上は最終氷期中(2万~11万年前)に屋久島に隔離されたことが明らかになった。また屋久島集団の過去の有効集団サイズの変動を推定したところ、多くの分類群において後氷期に有効集団サイズが縮小したことが示唆された。従って屋久島高山域の植物の多くは最終氷期中に屋久島に移入・隔離され、後氷期の気温の上昇に伴い集団サイズが縮小し、更に嗜好性種ではヤクシカの採食圧が一つの要因となり矮小化が起こったことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定していた以上の分類群において屋久島集団と他地域集団の形態データを取得することができた。また多くの分類群からMIG-seq法によってゲノムワイドなSNPs情報を取得することができ、屋久島矮小植物群の分岐年代や集団動態の大まかなパターンを推測することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果より標高や気候条件の違いと比較して、シカの嗜好性が強く屋久島の植物群の矮小化に影響していることが示唆された。屋久島の高山域のほとんどは花崗岩土壌であり降水量が非常に多い環境である。従って屋久島の矮小植物群は栄養分に乏しい土壌に生育していると考えられる。この栄養条件が矮小化に影響しているかはこれまでの研究では明らかにできていない。そこで屋久島高山域でも植物体サイズに大きな変異があるヤクシマショウマを用い、土壌栄養分や開空度やシカのアクセス性などのマイクロハビタットが植物体サイズへ及ぼす影響を推定する。また集団遺伝解析より屋久島高山域に隠ぺい系統が存在する可能性が示唆されたヤクシマノギラン、ヤクシマコオトギリ、コケトウバナに関しては分類学的研究を進める予定である。
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