屋久島の標高1600m以上の高標高域では、九州や四国に分布する普通型と比べて植物体サイズが著しく小型化した植物が数多くみられ、80種近くの草本植物が矮小進化したと考えられている。こうした様々な分類群における収斂進化は強い選択圧が植物体サイズに影響したことを示唆している。この矮小植物群落は1900年代初頭より着目されてきたものの、その進化要因はこれまで明らかになっていなかった。 本研究課題では草食獣であるヤクシカとの関係に着目し、屋久島の矮小植物がヤクシカからの採食を回避するために進化したという仮説を立て、この仮説の検証を行った。まず屋久島集団と九州や四国に分布する対照集団の植物体サイズの比較を40分類群で行った結果、シカの不嗜好種では植物体サイズは大きく変わらないものの、ほとんどの嗜好種では屋久島集団の植物体サイズが1/2から1/5程度まで小型化していることが明らかになった。一般化線形モデルを用いた解析より、気候条件や集団動態、土壌栄養分と比べて、シカの嗜好性が最も植物体サイズに影響していることが明らかになった。ゲノムワイドSNPsを用いて屋久島集団と対照集団の分岐年代推定を行った結果、多くの分類群は最終氷期中に対照集団から分岐したことが明らかになった。したがって矮小進化は数万年スケールで起こったと考えられる。また屋久島の高標高域でも植物体サイズに大きな変異がある植物種の体サイズを解析したところ、ヤクシカがアクセスしにくい崖などに生育する個体の植物体サイズが大きな傾向がみられた。 以上より矮小植物群は、ヤクシカの個体密度が高く他地域より隔離された屋久島において、ヤクシカの採食圧を回避するために進化したことが示唆された。 本研究成果は世界で初めて、草食獣の採食圧が群落レベルの矮小進化を引き起こしたことを示唆するものである。
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