研究課題
植物では、種子形成のための雌しべに花粉がつく受粉の段階で、花粉から花粉管が発芽し、伸長することで雌しべ内へと侵入する。花粉管が正しく発芽、伸長するためには花粉が雌しべ上で給水し、適切な細胞膨圧を維持する必要があるが、そのために雌雄の細胞間で受粉時に何が起こっているのか、その分子機構の詳細は明らかではない。本研究では、雌雄細胞間でのイオンや水のやりとりに着目し、膨圧調節研究のモデル細胞である気孔孔辺細胞で得られた知見をヒントとして、アブラナ科植物を用いて受粉時の花粉の膨圧調節メカニズムを明らかにする。本年度は、気孔開閉の膨圧調節機構をモデルに、受粉反応における雌雄細胞間の膨圧調節に関わる雌側因子の探索をシロイヌナズナのトランスクリプトームデータベースを用い行った。これにより、気孔開閉を仲介することが知られ、かつ雌しべ柱頭でも発現しているイオン輸送体の候補を絞り込み、シロイヌナズナを用いて候補のT-DNA挿入遺伝子破壊株の単離やCRISPR/Cas9システムによるノックアウト変異株の作製を進めた。現在、これら変異体の種子形成による受精の成否や花粉吸水等の表現型解析を行い、受粉反応に関与する雌しべ側のイオン輸送体同定を試みている。また、イオン輸送体候補内には、特異的な阻害剤や活性化剤の利用により、シロイヌナズナの受粉反応やアブラナの自家不和合性反応に影響を与える因子があることを明らかにし、この輸送体が受粉反応に関与する可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
気孔開閉の膨圧調節機構をモデルに、受粉反応における雌雄細胞間の膨圧調節に関わる雌側因子の候補を選抜し、そのシロイヌナズナT-DNA挿入遺伝子破壊株の単離やCRISPR/Cas9システムによるノックアウト変異体の作製を行った。また、候補因子特異的な化合物を雌しべ側に処理し、アブラナ科の受粉反応や自家不和合性に影響が現れたことから、この輸送体が花粉吸水に関与することを見出した。
今後は現在進めているシロイヌナズナの変異株の種子形成による受精の成否や花粉吸水等の表現型解析を全て行い、その結果から、花粉吸水が損なわれる変異体を選抜する。これにより、花粉吸水に関与する雌雄相互作用に重要な雌側のイオン輸送体を同定する。その後、変異株の乳頭細胞からプロトプラストを単離し、同定した輸送体が輸送しうるイオン輸送を実際に測定する。また、B. rapaの自家不和合性反応の花粉吸水制御におけるイオン輸送メカニズムを明らかにするため、組成を改変できる人工培地上でB. rapaの花粉を用いて、in vitro吸水実験を行い、吸水に影響を及ぼすイオンの探索を行う。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Biochemical Journal
巻: 478 ページ: 619~632
10.1042/BCJ20200559
Plant physiology
巻: 185 ページ: 682~693
10.1093/plphys/kiaa092