本研究では、プラズマ照射で水と溶存空気から目的の活性酸素種を作り出し、これを用いてグリセリンの選択的酸化を進行させる。そして、温和な条件、触媒フリーの選択的酸化を進行させるための方法論の構築に取り組む。 昨年度までに、バッチ型反応器を開発、グリセリン水溶液にプラズマを照射し、溶液pHの制御でAuやPtなど種々の貴金属触媒による選択的酸化が進行することを明らかにした。さらに、活性酸素種生成とグリセリン酸化のメカニズムを考慮した数学モデルを構築、各操作条件で観察された特異的な挙動を表現し、それぞれのメカニズムを実験と理論の両面で解明した。一方、バッチ型反応器では、系内に種々の活性酸素種が混在し、それらが経時的に生成、消滅するため、目的の活性酸素種の利用効率は低いと考えられる。 本年度は、目的の活性酸素種の濃度分布の空間的制御と、その利用効率の向上を目的とし、「項目③目的の活性酸素種を利用できるフロー型反応器の設計・製作と反応選択性の評価」に取り組んだ。フロー型反応器は、原料供給ポンプ、プラズマ照射部、反応器部、サンプル回収部で構成される。原料としてアルカリ性のグリセリン水溶液を供給する形で試運転したところ、反応器部だけでなく全流路内の原料溶液に通電し、運転できなかった。これは、プラズマ照射部において、バッチ型反応器で用いてきた原料溶液がプラズマ発生回路の一部となる放電型の照射ノズルを用いたためと考えられた。そこで、予め発生させたプラズマを噴射するジェット型の照射ノズルに改良したところ、通電が解消し運転可能なフロー型反応器を構築できた。反応器からの流出サンプルを分析した結果、目的のグリセリン酸が観察され、選択的酸化の進行を確認した。さらに、定常状態でのグリセリン酸の選択率はバッチ型反応器の場合より増加し、本フロー型反応器がプラズマ照射による選択的酸化に対して有効であることを実証した。
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