2023年度の研究実施計画の1点目は、2022年度までと同じく、対象とするバイオフィルムの微生物群集の調査であった。さまざまな廃水処理システム中に存在する汚泥を対象に調査を行った。また、2022年度までの研究進捗をもとに策定した、2023年度の研究実施計画は、放射光X線μCTによるL3吸収端上下のエネルギーを用いたサンプル測定と、減算法による染色元素の特異的可視化であった。微生物細胞への染色操作は、16S rRNAを標的とした核酸プローブおよびtyramide signal amplification反応を用いたプロトコルを用いて、金元素を系統学特異的に染色した。加えて、全微生物細胞の染色を目的としたオスミウム染色を実施した。放射光X線μCT撮影は、大型放射光施設SPring-8 BL47XUにおいて実施した。微生物細胞に対して標識した重元素(オスミウムおよび金)の特異的検出のために、X線吸収端の上下のエネルギーによるスキャンおよび減算法による元素の特異的検出を実施した。可視化の対象とした汚泥はグラニュール汚泥である。吸収端上下で撮影した画像の減算処理を実施した結果、顕著な差分が確認されたことから、オスミウムの特異的検出に成功した。一方で金は、gold-ISH法により特異的に標識した条件において、差分が明確には得られなかった。オスミウムにより染色したグラニュール汚泥を放射光X線μCT撮影に供し、特異的可視化を実施したところ、X線CTの再構成断面と、従来の蛍光観察により撮影したグラニュール汚泥の断面構造は、同じ結果を示した。このように、廃水処理汚泥を非破壊で3次元的に、かつ元素同定を組み合わせた可視化を実施したことにより、汚泥中で生じる微生物現象とその結果生じる物理的な性状の調査に対して、特定元素の標識と放射光X線μCTによる撮影による可視化手法が有益であることが示された。
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