研究課題
本研究はヒト由来の誘導性肺前駆細胞を作成し、移植可能なバイオ人工肺作成の基盤となる知見を明らかにすることを目的としている。令和3年度はmRNAを用いてヒト血管内皮細胞と肺上皮細胞から誘導性前駆細胞を作成した。特に血管内皮細胞では、初期化因子の導入で一度消失した血管内皮マーカーが培地変更によって出現することが確認された。そこで令和4年度は作成された誘導性血管内皮前駆細胞をマウススケールのバイオリアクターに注入し、生着率、性質を確認した。まずマウス肺の脱細胞化・再細胞化手法の確立を行った。マウス肺動脈・気管にカニュレーションして脱細胞化し、TritonX,SDC, DNaseを用いて脱細胞化した。マウス肺を再細胞化するのに最適な細胞数が明らかになっていなかったため、細胞数の検討を行った。マウス肺血管の全細胞数である6000万個を基準としてHUVECを1500万個から6000万個でマウス肺動脈から注入し生着を確認したところ、3000万個が最もよく生着していた。マウスを用いることで実験に必要な細胞数がラット等の10分の1程度なることはマウススケールバイオリアクターの利点と考えられた。続いて誘導性血管内皮前駆細胞をバイオリアクターに注入し、脱細胞化肺を再血管化した。3日間灌流し観察したところ、生着率はHUVECより良くないものの一部の細胞に生着が認められ、免疫染色では血管内皮マーカーであるCD31の発現が見られた。さらに血管平滑筋マーカーであるSMAも認められ、誘導性血管内皮前駆細胞からは壁細胞も分化している可能性が示された。先行研究では肺の再血管化には壁細胞も含め細胞の多様性が必要であることが示されており、壁細胞が自然に分化する状態には利点があると考えた。今後は脱細胞化肺への生着能の改善が課題であり、誘導性血管内皮細胞作成時の初期化誘導の期間の調整を検討している。
3: やや遅れている
令和3年度に作成した誘導性血管内皮細胞の再現性の確認に時間がかかったため、やや実験が遅れた。B18Rを培地に入れることによりmRNAによる細胞死を防ぐことで再現性が確立できている。今年度は血管内皮細胞に焦点を当ててマウス肺の再血管化のみを行っており、肺上皮細胞を使用した再細胞化は未達成であるため研究全体としてはやや遅れているが、誘導性血管内皮前駆細胞による肺の再血管化の改善を先に行うことで、肺上皮細胞に関しても同様の手法が見込めると考えている。
今年度の研究計画は、誘導性血管内皮前駆細胞の脱細胞化肺への生着率を上昇させること、血管内皮細胞で得られた知見を生かして誘導性肺上皮前駆細胞の作成プロトコルを見直し、再細胞化に用いることである。令和3年度、4年度の誘導性血管内皮前駆細胞の作成においては、培地交換によりもとの細胞形態に戻す試みを行った後も細胞には初期化因子の発現が持続しており、さらに脱細胞化肺に注入した細胞でも同様の結果が得られていた。これを考えると、作成された誘導性血管内皮前駆細胞は血管内皮細胞としての機能を取り戻すのには導入した初期化因子の影響が強すぎる可能性が高かった。そこで、今年度はまず初期化因子の導入条件を変えて誘導性血管内皮前駆細胞を2種類作成し、それぞれの特徴をフローサイトメトリー・免疫染色・qPCRで解析する。具体的には今まで初期化因子の導入時間はiPS細胞作製の半分である4日間であったため、2日間、1日間と条件を変えた細胞で脱細胞化肺の再細胞化を試みる。続いて、iPS細胞から作成した血管内皮細胞と上記のプロトコルで作成した誘導性血管内皮前駆細胞において、増殖能・組織への定着性・血管 内皮マーカーの発現を比較する。 さらに、肺上皮細胞においても初期化因子導入プロトコルを変更して最適化を行い、血管・上皮両方を注入して脱細胞化肺を再細胞化する予定である。
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