生物の脳を情報処理システムとして捉えたときの大きな特徴の一つはその高い耐損傷性にある。本研究では、培養神経回路に基づく新しい in vitro 実験系を構築し、損傷印加前後の神経活動パターンを自発活動および入力応答の観点から解析することによって、実神経細胞ネットワークの損傷耐性の発現メカニズムを明らかにすることを目的としている。これを実現するためには、小規模な培養神経回路を孤立系に制御し、その神経回路の入出力特性を情報処理の観点から調べる実験系が必要となる。初年度であるR3年度では、光遺伝学の技術を用いて、培養神経回路に光応答性カチオンチャネルを発現させ、パターン光照明装置を使用することで、時空間信号の入力を可能にした。これを用いて培養神経回路の入出力応答を測定し、さらに機械学習のレザバー計算やリカレントニューラルネットワークの枠組みを用いることで、多クラス分類やsequence-to-sequence学習などの情報処理に結びつける実細胞レザバー計算システムを構築した。そして、このシステムにより小規模な培養神経回路が1~2秒程度の短期記憶を持つことや、時空間パターンの分類が可能なことを見出した。このほか、来年度以降に実施する神経回路の損傷修復機能の解析に向けて、レーザーマイクロダイセクションによる損傷印加系の構築も立ち上げることができ、レーザー光の光軸や直径を光学系により調整することで神経細胞の軸索を切断できる条件を見出した。
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