研究課題/領域番号 |
21J21802
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 知也 東北大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ソフトロボティクス / バイオミメティクス / 流体駆動型機構 |
研究実績の概要 |
今年度は柔軟膜でできた先端伸展構造体において,液体駆動式先端伸展構造の基本原理の提案と狭隘空間内での作業を可能とする薄型グリッパ機構を提案した.まず床面との摩擦を用いた形状維持手法をベースに伸展構造の先端部のみを屈曲させる機構を内部に挿入することで自由に伸展方向を選択可能になる構造を考案し,試作機を製作して手法の有効性を確認した.本手法では液体で満たされた膜構造の先端に操舵機構を挿入するために非密閉型の液体格納容器からチューブ型の操舵機構を挿入する構成を用いた.これは液体の圧力が液面の高さによって決まることに着目し,膜構造を格納しておく容器の上部を大きく開放することによって,従来の空気で駆動する先端伸展構造では困難であった膜構造内部に出し入れ可能なチューブ型機構を挿入することを可能にしたものである.このチューブ構造の先端に首振り動作を行う機構を取り付ける事によって任意の方向に伸展し,伸展軌跡を保持したまま移動することを可能とした.また実際に製作した試作機を用いた実験によりこの機構の伸展可能な曲率半径などを評価した.この研究成果は2021年4月に行われた査読付きの国際学会およびジャーナルで発表された. 次に本研究の最終目標である狭隘空間内での物体輸送・回収を可能とするグリッパのための薄型の湾曲指機構について,従来困難だった薄さと高い剛性を両立するメカニズムを考案した.この機構は先端の回転支点で結合された二枚の金属板で構成された湾曲機構となっており,板の湾曲と同時に二枚の板同士の角度も変化させることで断面二次モーメントを増加させ構造全体の構造を高剛性化させることを可能とした.この原理をもとに湾曲する指機構試作機の設計・製作を行い,これを用いて提案機構の可動範囲などを評価した.そしてこの内容を2021年8月に行われた査読付きの国際学会およびジャーナルで発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究課題の進捗状況は提案機構を構成する重要な機構部分の個々の要素の開発はおおむね順調に進んでいるが,提案機構の着想を得た生物に対する観察・検証に関しては来年度に実施する予定に変更する. まず本年度に行った液体駆動による床面摩擦を用いた形状を維持手法と非密閉型構造による膜構造内部へのアクセス方法の確立により,従来の長尺構造体に比べて大幅な用途の実現可能性を示すアイデアを提案した.これは本研究課題の目標とする動作に必要な柔軟膜構造体の伸展形状の維持および先端伸展構造へのグリッパやカメラなどの機能付与のために必要な要素である.また提案手法を基に試作機を製作し,これを用いて手法の有効性を検証し,これによって得られた知見をRobosoft2021などで学会発表を行った.これは最終目的である分岐形状を有する先端伸展構造体の実現に大幅に近づく研究成果であった. この研究成果はヒモムシが体内の先端伸展構造を液体で駆動しているという点に着目し,従来空気で駆動されている先端伸展機構を比重の大きい液体で駆動することで床面摩擦によって形状を維持しているのではないか,という仮説をもとにしたアイデアから考案されている.しかしながらコロナウイルスの感染拡大などの影響により,学外での研究活動が実施できないこと,研究対象生物であるヒモムシが日本国内でも生息範囲が限られていることから実際のヒモムシに対しての観察・実験の機会が十分に得られなかった.現時点ではヒモムシしかし実際にどれほどヒモムシが床面摩擦に依存しているのか,その定量的な評価が今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度に考案した液体駆動型先端伸展構造のアイデアをもとに分岐形状の導入・最適化を検討していく. 効率的かつ網羅的な探索作業を可能とするために,現状単一の索状体である提案機構に分岐構造を導入する.狭い災害現場で多様な作業を行うためには双腕ロボットアームのように複数のエンドエフェクタによる協調動作が必要となる.提案機構においては分岐した先端部がそれぞれに伸展動作を行うことで複数の機能を実現することができる. 分岐型先端伸展構造では単一索状形状に比べ,内部を通過する膜の数が増え,それらの相互作用を考慮する必要があるため,実際に分岐形状を有する先端伸展構造を運用するためには次の3つの開発項目の達成が必要となる.1)分岐型先端伸展型膜構造の形状において,伸展動作を阻害しないように分岐の数や位置,それぞれの直径などの設計パラメータを設定するための設計手法の構築,2)内側を循環する膜や先端屈曲機構の導線などの相互の絡まりや摩擦などによる伸展動作の阻害の低減,3)複数の伸展部を独立して効率的に動かすための制御手法の確立や操縦用インターフェースの検討を行う.特に1)の分岐形状の設計においては実際のヒモムシの吻構造を観察し,そこから得た知見をもとに分岐形状を制作可能なスケールで再現する.このときヒモムシの実物に対しての実験・観察にとらわれず文献やヒモムシの研究者とのディスカッションなどによって仮説を立脚し,試作機をもとに仮説を検証しながら設計理論の構築を行っていく. 以上の研究によって得られた成果をまとめSoft Roboticsなどのジャーナルへの投稿および,ICRA2023,RoboSoft2023をはじめとする国内外の学会での発表を行う.
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