本研究は、沿岸域底層での貧酸素水塊形成に寄与する、粒状有機物に着目している。粒状有機物(POM)の沈降・分解過程での質的変化の解明による溶存酸素消費量推定の高精度化および局所的な有機物負荷が生じる養殖場における有機物動態(付着生物除去)による粒状有機物負荷削減効果の推定を目的に研究を遂行した。海域での沈降性POMを深度別に採取し、脂肪酸組成や酸素消費速度を評価した。その結果、3季節(春、夏、秋)ともに水深方向に沈降POM中の易分解であるC20以上PUFA含有量が低下し、それに伴い酸素消費活性も低下した。このことから、内湾の水深20m程度の沈降過程においても、易分解性の物を起源とする有機物を筆頭に分解の影響を受け、酸素消費活性も低下することを明らかにし、貧酸素水塊の予測の高度化に寄与しうる知見となった。また、養殖場内においては、付着生物の存在によるカキの成育状況の低下、有機物沈降負荷の増加への影響を評価した。その結果、海域でのEPA生産の担い手であり、二枚貝の成育に重要な珪藻の摂餌量が、イガイの付着量の増加に伴い相対的に減少し、カキの成育鈍化につながる可能性が示された。また種間差として、イガイはカキよりもEPAの摂餌速度が大きく、イガイの付着がカキとの珪藻をめぐる競争を激化させる可能性が示された。さらに粒状有機炭素(POC)排泄速度もイガイの方がカキよりも大きく、カキ養殖場でのイガイの付着が養殖場下への有機物負荷を増大させる可能性が示された。これらから、無給餌養殖における付着生物除去は養殖種の成育を促進しつつ同時に底層への環境負荷を削減しうる手法であることを明らかにした。さらに養殖場内においては、付着生物の除去を想定し、未処理の場合と比較した際の養殖カキの個体サイズや海域POC濃度の増加および沈降POM量の削減の効果を一般化した。
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