研究実績の概要 |
歯の発生において歯原性上皮細胞から分化したナメル芽細胞は、基質分泌期、移行期、成熟期と分化してカルシウム等が沈着し、エナメル質が形成される。我々は過去にSox21、Gpr115、Ambnといったエナメル質形成に重要な分子を明らかにした。しかし、細胞内カルシウムと、エナメル芽細胞との関連は不明な点が多い。本研究では、エナメル芽細胞で発現しているカルシウム結合タンパクであるS100ファミリーに注目した。特に、シングルセルRNAシークエンスおよびマイクロアレイを用いた網羅的解析により歯原性上皮で特異的に発現しているS100a6をターゲット分子とし、エナメル芽細胞における機能解析を行った。 in vivoでは、S100a6免疫染色において胎生13,15日及び生後1,7日齢マウス臼歯歯胚のうち生後マウスから発現が開始し、エナメル質に接するエナメル芽細胞に局在を認めた。6週齢マウス切歯歯胚では、エナメル芽細胞への分化に伴い、発現量が増加した。 in vitroでは、ラット歯原性上皮において歯原性上皮細胞からエナメル芽細胞へ分化誘導した場合、S100a6の発現部位に変化を認めた。カルシウムイオン染色ではエナメル芽細胞へ分化すると染色部位が変化し、S100a6発現抑制により染色部位が減少した。S100a6発現を抑制すると、エナメル芽細胞への分化誘導時にERKシグナルの減弱を認めた。更に、マイクロアレイにて網羅的解析を行ったところ、表皮系細胞分化の分子が上昇し、細胞増殖や細胞周期の分子が減少していることが示唆された。そこでEdU解析を行ったところS100a6発現抑制により細胞増殖は減少し、更にqPCRにて発現分子を確認したところ、表皮系細胞分子の発現が上昇した。 以上から、S100a6は歯原性上皮細胞から上皮系細胞へと分化することを抑制し、エナメル芽細胞への分化誘導を行っている可能性が示唆された。
|