研究実績の概要 |
本研究は、結晶中の分子ダイナミクスと連動した電子伝導特性の変調および有機メモリスタの作製を目的として実施した。 [12]crown-4, [15]crown-5および[18]crown-6とLi+, Na+, K+, Rb+およびCs+の組み合わせからなる多様な超分子カチオンの形状、サイズおよびダイナミクスが導電性TCNQ錯体へ及ぼす影響を検討した。新規に19種類の単結晶を作製し、その熱物性、電気伝導度、誘電率、磁化率測定および単結晶構造解析に成功した。超分子形状はクラウンエーテル空孔に対する金属イオン半径の増大に伴い、M+:クラウンエーテルの比が1:1の平面型から、1:1の非平面型、または1:2のサンドイッチ型構造へと変化した。平面型超分子カチオンの形成が見られたLi+([15]crown-5)TCNQ2塩は、Li+の運動の熱的活性化に伴い、160 K付近において秩序-無秩序相転移を示した。一方、サンドイッチ型超分子カチオンの形成が見られたK+([15]crown-5)TCNQ2は、超分子カチオンの回転運動の熱的活性化に伴う秩序-無秩序転移を示した。一方、Rb+またはCs+のように大きな金属カチオンを用いた場合や金属カチオンとTCNQのシアノ基間に強い相互作用が見られた系では、カチオン種のダイナミクスは出現しなかった。多様なサイズおよび形状の超分子カチオンを導入することで、TCNQの分子配列様式が幅広く変化した。298 Kにおける伝導度は、TCNQダイマーによる2次元伝導層を含むNa+([15]crown-5)TCNQ2で8.6、TCNQモノマーが混在していたK+([18]crown-6)TCNQ2.5で2.3×106 Ωcmであり、配列様式の違いにより電導度に106倍もの変化が見られた。 サイズ・形状の異なる超分子カチオンを導入することで、導電性TCNQ錯体中への多様なイオンダイナミクスの導入、TCNQ配列制御による電子物性の変調が可能である事を見出した。
|