研究課題/領域番号 |
21J21979
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三部 宏平 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | BTBT / アルキルアミド / 有機強誘電体 / 有機半導体 / メモリスタ / 分子ダイナミクス / 非線形応答 / OFET |
研究実績の概要 |
本研究はダイナミクスと連動した伝導特性の変調、有機メモリスタの作製を目的として実施した。 初年度は導電性TCNQ錯体中のイオンダイナミクス制御およびその電気的特性への効果に関する研究に取り組んだ。19種の単結晶に対し、単結晶構造解析、電気伝導度および誘電率の温度・周波数依存性評価を行うことでイオンダイナミクスと電子・磁気特性の相関を明らかにした。一方メモリ効果発現のためには、材料中のダイナミクスと伝導パスの相関をより強固にする必要がある。 本年度は電場に応答し分子集合様式が柔軟に変化する有機半導体の開発から、ダイナミクスと連動した電子伝導特性の変調実現を目指した。アルキルアミド置換π共役系化合物は、アルキル鎖のダイナミクスがアミド基の回転運動を誘起し、その分極方向を電場により反転可能な強誘電体となることが報告されている。有機半導体であるBTBT骨格にアルキルアミド基を導入したR-BTBT-CONHC14H29 (1: R = H, 2: R = C8H17)、R-BTBT-NHCOC14H29 (3: R = H, 4: R = C8H17)を合成し、その構造–物性相関を検討した。 結晶構造解析の結果、アルキルアミド置換BTBT誘導体はBTBT骨格が形成する2次元伝導パスとアミド基が形成する1次元水素結合鎖が共存可能であった。2は369 K以上の温度領域でSmE相への転移を示し、SmE相において電場–分極応答(P-E) 曲線に強誘電体に特徴的なヒステリシスを示した。また、413 Kでの蒸着によりバイレイヤー周期の層状配向膜を形成した。この膜をボトムゲート型有機電界効果トランジスタ(OFET)のチャネル層に適用したところ、p型半導体に特徴的な出力特性を示し、飽和領域における移動度は0.021 cm2 V-1 s-1であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「イオンダイナミクス制御による有機メモリスタの開発」は、当初の計画以上に進展している。本年度はアルキルアミド置換BTBT誘導体を用いた集合様式の電場制御およびダイナミクスと伝導特性の相関解明を行った。分子2は液晶相において強誘電体に特徴的なP–Eヒステリシスを示し、高温蒸着膜はOFETのチャネル層に適用可能な半導体特性を示した。P-Eヒステリシスはアミド基の水素結合鎖が形成する分極の反転に対応しており、分極方向に応じた半導体特性の変調が達成できれば新たなメモリ材料としての応用が期待できる。しかし、分子2は半導体特性の安定性に問題があり、分極反転前後の評価を行うことができなかった。一方、アミド基の向きを反転させた分子3では、半導体特性を安定的に評価することができた。蒸着膜の大気中光電子分光測定より、アミノ基側がBTBT骨格に直結した分子3ではホール注入効率が改善されることが示唆された。3蒸着膜はアニールにより層状高配向膜を形成し、OFETデバイスのチャネル層へ適用して見積もった飽和領域の移動度は2.1×10-3 cm2 V-1 s-1であった。また、分子3は412 K以上の温度でSmE相を形成し、P-E曲線にヒステリシスを示した。3蒸着膜を用いてポーリングによるデバイス特性の制御を試みた(443 Kから室温まで-70 Vの電圧を印加)。結果、垂直方向のポーリングで半導体特性が消失した。XRD測定よりポーリング前後の分子配向評価を行ったところ、ポーリング後では層間距離に対応するピークの強度が大幅に減少していた。また443 Kでアニーリングを行うと、ピーク強度・半導体特性が復活した。3蒸着膜を用いたデバイスはポーリングによる分子配向および半導体特性制御が可能であり、本研究はメモリ材料開発への展開が期待できる。これらの成果は2件の国際学会及び4件の国内学会にて成果報告を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、アルキルアミド置換BTBT誘導体に関する研究成果をまとめ、学術誌への投稿準備を行っている。また、これらの化合物は半導体特性制御にデバイスの過熱冷却を必要とするという課題がある。これはアルキルアミド基の熱活性化型運動による固相ー液晶相転移温度の高さが原因と考えられる。長鎖アルキル鎖を有する液晶化合物の相転移温度は、アルキル鎖の伸長や分岐鎖の導入、コアとなる機能性π骨格の変換によって制御可能であることが知られており、来年度は導入するアルキルアミド基を調整することで、より応用を見据えたメモリ材料の開発を目指す。また、外部電場による分子ダイナミクス、分子集合様式の制御は伝導度のみでなく、発光、磁気、誘電特性の制御など広範な材料系への応用が見込まれる。これまでに確立したアルキルアミド置換BTBT誘導体の合成・評価法を軸とし、外場による物性制御、機能開拓を目指した研究を展開することで、新たな研究領域の確立を見据えた研究活動を行う。これらの成果をもとに、国際学会および国内学会での成果発表を行い、最終的に博士論文へとまとめる。
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