本研究は,熱帯低気圧を起源とする巨礫の分布を制約とした数値計算に基づき,北西太平洋広域における波浪と熱帯低気圧の最大強度を定量的に推定することを目的とするものである.本年度は,小笠原諸島において現地調査を行うとともに,本年度までに得られた各地の試料等を用いて各種分析を行った.本年度までの調査結果から,琉球列島・小笠原諸島・フィリピンの各地域の巨礫分布には類似点と相違点があることが明らかとなった.各地の巨礫データと地形データを利用して,高潮,波浪,巨礫移動に関する数値シミュレーションを実施した.計算結果に基づき,調査地域を襲来した最大波浪および熱帯低気圧の強度が推定された.最大波浪は,有義波高とピーク周期の関数によって求められ,熱帯低気圧の常襲地域ほど大きく推定された.最大波浪を生成しうる熱帯低気圧の強度は,久高島と奄美大島では各地域の観測上の最大を上回るものとなり,過去により大きな熱帯低気圧が琉球列島周辺を通過した可能性がある.さらに,巨礫を制約として推定された最大波浪分布と確率台風モデルによって計算された人工台風データを比較した.これらの成果の一部は,JpGU2023年大会において招待講演として発表を行なった.また,本年度は最終年度でもあり,これまでの研究の取りまとめも行った.まず,奄美大島の巨礫から復元された北西太平洋の熱帯低気圧の活動の変動について,査読付き国際学術誌に論文を投稿した.また,古台風研究の現状と課題に関して,査読付き国際学術誌に総説論文を投稿し,掲載受理された.
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