研究課題
本年度は、反強磁性ワイルセミメタルMn3Snと重金属Ptのヘテロ接合における電流応答に関して研究を行った。ノンコリニアスピン構造またはカイラルスピン構造を有するMn3Snはスピン軌道トルクを用いることで効率的に磁気秩序が制御でき、新たな機能性が表れると報告されている。しかし、その磁気構造を代表する磁気秩序パラメーターであるオクタポールがスピン軌道トルクによってどのようなメカニズムで働き方をするのかは明らかになっていない。本研究では、昨年度で最適化したM面配向のMn3Sn薄膜を用い、重金属Ptからスピンを注入することよりオクタポールの応答を調べた。その結果、オクタポールは従来のコリニア磁性体の磁気秩序とは異なる働き方をすることを発見し、そのメカニズムを明らかにした。また、ノンコリニア反強磁性体においてひずみによって誘起される磁気異方性やスピン軌道トルク効率などを定量的に評価し、ノンコリニア反強磁性体を用いたスピンデバイスへの基盤を構築した。本研究は6ヶ月間にかけて行われたアメリカ合衆国にあるマサチューセッツ工科大学との共同研究であり、学術誌への発表を進めている。また、本研究内容で国際学会にて招待講演も予定している。その他、共著者として寄与した研究を含め、2件の学術誌投稿、3回の国内学会発表、6回の国外学会発表を行い、1件の受賞があった。
1: 当初の計画以上に進展している
アメリカのマサチューセッツ工科大学と共同研究を行い、有意味な成果を出すことができた。共同研究ではスピン軌道トルクによって誘起されるオクタポールのダイナミクスを解明し、ノンコリニア反強磁性体の電気的制御における理解をより深めたと思う。また、ノンコリニア反強磁性体においてひずみによって誘起される磁気異方性やスピン軌道トルク効率などを定量的に評価し、ノンコリニア反強磁性体を用いたスピンデバイスへの基盤を構築した。本成果は当初に計画していた内容を超える内容となり、「当初の計画以上に進展している」と評価する。
2021年度にM面配向とC面配向のノンコリニア反強磁性体Mn3Sn薄膜を作製した。2022年度はM面配向Mn3Snを用いてスピン軌道トルクによるオクタポールのダイナミクスを解明した。2023年度にはC面配向Mn3Snを用いて新たな機能性を創出したいと思う。C面配向Mn3Snは磁気スピンホール効果という効果を表し、この効果によって無磁場で強磁性体の磁化反転ができると知られている。本年度にはこの効果による無磁場磁化反転を実証し、磁性層であるMn3Snの磁気構造を電気的に制御することによって新たな機能性を生み出したいと思う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)
Applied Physics Letters
巻: 122 ページ: 122404~122404
10.1063/5.0135709