2023年度は、昨年に引き続き伝統的な三十三観音巡礼が東日本大震災後にどのような変化をもたらしたのかを確認するため、東北地方の太平洋側に位置する三十三観音巡礼の札所を中心に調査をおこなった。調査の中心となったのは岩手県大船渡市や陸前高田市そして住田町にまたがる気仙三十三観音である。報告者は市民や僧侶が中心に行っている気仙三十三観音札所徒歩巡礼の同行調査をおこない、震災以前の地域の様子や震災時、そして仮設住宅周辺や海岸線の様子などを現地で確かめるとともに、関係者から聞き取りをおこなった。また福島県の磐城三十三観音巡礼の調査も開始し仏像やモニュメントの関係を調査するとともに、福島県いわき市において3月11日前後の慰霊祭の調査をおこなった。このほか宮城県の東松島市と石巻市において、津波による仏像や記念碑の損壊、新たなモニュメントや大仏の発願、建立についても調査をおこなった。これらの調査から物質文化としての仏像が信仰に影響を与えていることが明らかになった。これらの調査結果は、雑誌『地域寺院』での連載「仏像が生まれるとき」で執筆をおこなったほか、『アンジャリ』「東日本大震災後の仏像」、『中日新聞』「震災と仏像」などでも記事として広く発表をおこなった。 また2021年度から調査を続けている、東北地方における地蔵への被覆奉納の調査結果をまとめた論文「地蔵信仰における石と布」を執筆し、『宗教と社会』に投稿、査読を通り2024年6月に刊行される予定である。
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