研究課題
本年度は,大変形や部材分離に伴う大回転問題を考慮した,破壊力学及び損傷力学の利点を併せ持つ遷移理論を構築した.まず,連続体力学における有限変形の枠組みにおいて,任意き裂の発生・進展・分岐をエネルギー最小化問題の解として予測する「phase-fieldき裂モデル(PFモデル)」の定式化を行った.PFモデルは任意き裂進展問題をエネルギーベースで議論できる一方で,不連続き裂面を正則化して 連続的な損傷領域として表現するため,構造物の崩壊で想定される部材の分離を表現することが不可能であったため,定式化したPFモデルに,場の不連続問題の記述を得意とする「有限被覆法」の概念を統合し,遷移理論を構築した.これにより,任意き裂進展問題はエネルギー最小化問題の解として予測する一方で,そのき裂経路は不連続なき裂面として記述される遷移理論が完成した.定式化した遷移理論をインハウスの有限要素プログラムへの実装を行った.PFモデルの実装は通常の材料サブルーチンと同等の手順で行う 一方,数学被覆および物理被覆の実装は有限要素法の要素アセンブリアルゴリズムを大きく変更する必要があったため,まずは2次元問題の実装を行った.提案手法は一つの荷重増分ステ ップ間の非平衡状態中に進展するき裂進展を追随してシミュレートすることが可能であり,モード1やモード2破壊試験などのベンチマークを含んだ数値シミュレーションを実施し,提案手法の性能や妥当性の確認を行った.研究成果の報告および本研究に関わる破壊理論や計算手法の情報収集のために,国内学会2件(応用力学シンポジウム,計算工学講演会)および国際学会2件(WCCM,EFEM)への出張を行った.また,本研究を遂行するにあたり,同分野の専門書籍による学習を通じて専門性の理論基盤を修得した.
2: おおむね順調に進展している
PFモデルの定式化および有限被覆法については知見を有していたため,遷移理論の定式化の面は想定以上の速度の計画が達成された.一方,インハウスの有限要素プログラムへの実装段階で,既存の数値計算アルゴリズムを大きく改修する必要があったため,想定以上の時間を要した.加えて,陰的き裂から陽的き裂へと遷移するアルゴリズムの実装は,機械特性を考慮する先行研究とは異なり,画像処理分野の知見を応用し,損傷変数を分布を用いた手法を採用したために,想定以上の時間を要した.しかしながら,先述の遷移理論の定式化の段階が想定より早く終わったため,トータルとしては本年度の研究計画がおおむね想定通り達成されたといえる.
今後の研究の方針として,提案した遷移理論を動的問題・弾塑性問題への拡張を計画している.そのために,塑性ひずみエネルギー,運動エネルギー,散逸エネルギーを考慮したエネルギー保存則に対して,変分原理を用いた勾配損傷モデルの定式化を再度行う.得られた支配方程式をインハウスの有限要素プログラムへと実装し,陰的き裂から陽的き裂へと遷移させるアルゴリズムの改良を適宜行う.提案手法は,塑性・損傷の双方に対して非局所手法を採用しているため,メッシュ依存性が小さい.さらに,陰的き裂(剛性低下要素)は陽的き裂へと遷移するため,従来法で課題となっている要素の破綻による数値シミュレーションの発散といった問題が発生しにくくなる.加えて,三次元問題への対応を可能とするためにインハウスの有限要素プログラムの改良を行う.これにより,従来法では困難であった,不連続き裂面を有する三次元動的・弾塑性破壊の数値シミュレーションが可能となり,構造物の損傷・破壊予測への応用が期待される.これまでの研究成果の発表および情報収集のために,国内学会1件(計算工学講演会)および国際学会2件(US national 17, Complas2023)への出張を行う予定である.また,研究成果を適宜まとめて,国際誌へと投稿する予定である.
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
International Journal for Numerical Methods in Engineering
巻: - ページ: -
10.1002/nme.7216
International Journal of Fracture
巻: 240 ページ: 183-208
10.1007/s10704-022-00681-9
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10.1002/nme.7169
Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering
巻: 400 ページ: 115577
10.1016/j.cma.2022.115577